「これでひとつの時代が完全に終わったのかな? 寂しいけどね。これもディスティーノ、運命だよ。かつて彼が俺にこう言ったよ。2006年の7月だったかな? 早く俺のところまで来いよって。でもさ、今この場で俺は彼にメッセージを送るよ。棚橋、早く俺のところまで戻ってこいよ。まあ、戻ってこようとするのは自由だから楽しみに待っとくぜ。カブロン」
試合前の予告通り、棚橋にトドメを刺した内藤だったが、コメントブースでは棚橋に奮起を促すようにも取れるコメントを残している。棚橋はノーコメントだった。
翌5日の後楽園ホール大会。全対戦カードが当日発表だったのだが、メインイベントでNEVER無差別級6人タッグ選手権試合、前日に王座を奪還したばかりのSANADA&EVIL&BUSHIに、棚橋&中西学&田口隆祐が挑戦することが発表されると、超満員のファンからは大きなどよめきと拍手が送られた。棚橋&中西&田口は普段もあまり組むことがない急造タッグだが、個々の人気が高いためファンの支持を得たようだ。
乱入や波乱な結末などがあり、少し荒れた大会になった1・5後楽園大会。しかしメインで棚橋組が棚橋の新テーマ曲に合わせて入場して来ると、一気に会場の空気が明るくなった。前日に初公開されたばかりの棚橋の新テーマ曲だが、ファンの浸透力が高く、曲中に盛り込まれている「GO!ACE!」という掛け声に合わせて叫んでいるファンが多く見られた。
試合は、ファンの圧倒的とも言える支持率をバックにベテランの中西が大奮闘。これを棚橋と田口が見事にアシストし、最後は中西が説得力十分のヘラクレスカッターでBUSHIを葬り王座を奪還。第10代王者に輝いた。1・4ドーム大会では、所属している日本人選手全員がタイトルホルダーとなったロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン(L・I・J)だが、逆にすべてのタイトルをCHAOSとL・I・Jに流出させてしまった新日本本隊にとっては、一夜にして一矢報いた形となった。
試合後、ファンと喜びを分かち合った棚橋は遅れてコメントブースに現れると「ありがとうございました」と笑顔で中西と握手。田口には「これこそワンチャンだな」と声をかけた。前日にコメントを出さなかったこともあり「やっぱりベルトっていいもんですね」と言うと、中西&田口が去ったあとも一人残ったので、こんな質問をぶつけてみた。
――今日は入場時、ファンから「GO!ACE!」という掛け声もありました。すぐに浸透しそうな良い曲ですがいかがですか?
「これはどんな良い曲であっても、実績、試合内容が乗っていかないと、空っぽのままなんで。この良いメロディー。今、まだ空っぽの曲ですけど、中身は俺が詰め込んでいきますから。うん。いい話だな」
棚橋は自分自身に言い聞かせるかのように答えてくれた。さらに内藤戦の敗戦を「僕が感じている以上に、ファンの方、関係者、レスラー仲間が、凄く重く受け止めている結果」と分析すると、「少し落ち込もうかなって思ったんですけど、リングで試合して、ファンの声援を聞いたら『プロレスってそうじゃねぇな』って思って(落ち込むのを)やめました」と話した。内藤にトドメを刺されてドン底に堕ちた翌日にチャンピオンになってしまうあたり、まだトドメを刺されていないのかもしれない。「メインイベントも遠いし、IWGPも遠いし、インターコンチも遠い。ただ、その、発信源は俺なんで。その意味を1番理解しているのも、俺」と言い切った棚橋の表情からは「必ずまた中心に戻ってみせる」といった自信も垣間見れた。棚橋の良いところは“開きなおり”と“切り替え”そして決断の早さである。新日本プロレスが厳しいときも棚橋の素早い決断力で乗り越えてきた。ドーム大会の盛り上がりについては「年々盛り上がっていくけど、棚橋はどんどん下がっていくっていう状況が、やっぱり悔しい」と話していたが、この悔しさがある限り、そしてまだ空っぽのテーマ曲に「詰め込む」作業が終わるまで棚橋弘至は終わらない。
「大丈夫です。棚橋は、元気です」
2017年、棚橋弘至が復権に向かって発進した。「GO!ACE!」のテーマ曲とともに。
(どら増田)
写真:イーデス・ハンセン
【新日Times Vol.51】