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松坂世代の晩節「平成の怪物」が引退を表明するときは…

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松坂大輔

 かつて、球界を席巻した1980年生まれの「松坂世代」だが、2019年シーズン、NPBの現役選手は8人。代表的な選手の近況を伝えると、ソフトバンク・和田毅は復活勝利こそ果たしたが、右太股を痛めて登録を抹消(7月21日)。阪神・藤川球児は後半戦から従来のクローザー役に復帰。打者の手元で浮き上がってくる独特のストレートが蘇りつつあるが、全盛期の球速はない。肝心の松坂大輔は復活勝利後の先発で、1/3回8失点と信じられないような醜態をさらしてしまった(7月27日)。

 彼らにとって39歳の年。この年齢まで現役を続けてきたことには敬意を表すべきだが、こんな声も聞かれた。

 「練習熱心でもあります。彼らは何も指示されなくても自分で考えて、しっかりと練習しています。例外は松坂かな(笑)」(プロ野球解説者)

 松坂は「完全燃焼していない」とし、現役にこだわってきた。松坂を見たいと思うファンはいまだ多く、その根強い人気が現役を続けたいとする“ワガママ”を許しているのだろう。なぜ、ワガママなる言葉を使ったというと、松坂は「チームのために」とは言わないからだ。チャンスをくれた中日のため、ファンのためと思っているはずだが、それを口にすることはほとんどない。

 あえて言わないのだとしたら、そこに松坂の野球哲学があるのではないだろうか。

 話は、2006年の第1回WBCにさかのぼる。松坂は日本のエースとして代表チームに召集された。日本は初代王者となり、松坂は大会MVPにも選ばれた。しかし、当時を知るNPB関係者によると、松坂は他球団の年長選手から叱責される場面があったという。

 「深いところで、野球、ナメてるだろ?」

 性格もあるのだろうが、松坂は練習中もニコニコしている。常に周りに人が集まっていて、高校、西武ライオンズ(当時)時代には「サボリぐせ」を指摘されたほどだ。キツイ練習で追い詰められると、笑ってごまかし、最後までやらない。決して練習嫌いではないが、そういう態度に疑問を呈したのだ。

 「松坂にとって、野球はコミュニケーションの手段だったのかもしれません。仲間思いで、彼らと一緒に行くのが楽しくてたまらないというか、そういう遊びの延長で野球を続け、結果的にプロの世界まで上り詰めていったんです」(NPB関係者)

 だが、その大好きな野球で、松坂は「地獄」も味わった。メジャー挑戦後に負った右肘の故障であり、投げられない苦しみと、復活後も思うようなピッチングができないイライラも経験した。「このままで終わるわけにはいかない」という思いが中日での復活勝利につながったのだが、松坂以外のピッチャーだったら、ここまでは待ってくれなかっただろう。とっくの昔にクビを宣告されていたはずだ。

 「松坂に限らず、ベテラン選手は周囲に気を遣わせるなど、特別扱いされていることを自覚していると思います。だから、チームに何かを残さなければいけないと思い、若手に技術的な助言を送るなどしているのでしょう」(前出・同)

 松坂の「まだ続けたい」の言葉には、これまで応援してくれたファン、自身の野球人生を支えてくれた人全てに対し、「このまま現役をやめたら、申し訳ない」との意味も含まれているのではないだろうか。野球に限らず、プロアスリートにとって、最高の幸せは自身で引退を決められること。大多数がクビを宣告され、未練を残したままやめていく。「幸せな野球人生を送ることができた」。お世話になった人たちにそんな報告することが一番の恩返しだと考えているのだろう。(スポーツライター・飯山満)

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