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愛知県尾張地方の妖怪「紙舞」

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画像はイメージです。

 紙舞は、風も無いのに何枚もの紙がひとりでに舞い飛ぶという現象である。ただし、その現象が起こるのは10月(神無月)、神様のいない時期に限られている。朝日文左衛門著『鸚鵡籠中記』では、白くて硬い紙が空中を舞い、その紙に顔を覆われた人々は寝込んでしまったという事件が愛知県名古屋市でも発生していたと記している。

 元禄10年(1697)10月14日、大沢直三郎の下僕・平三がほろ酔い加減で伏見町(名古屋市中区)の柳並木を千鳥足で歩いていると、突然、目の前が真っ白になった。真っ白い硬い紙のような物が目の前に現れて、顔にへばりついたのだ。その衝撃で、平三は酒の酔いが一瞬に覚めた。声を出して、助けを呼ぼうにも声が出せない。しばらくすると、白い紙は平三をあざ笑うかのように、舞い上がり、夜空に消え去った。平三は恐ろしくなり、慌てて家に戻った。
 翌朝、仲間達に昨夜の出来事を話しても誰も信じなかった。それから、平三は熱を出し寝込んでしまった。その後も白い紙に襲われ、病患する事件は相次いだ。
 10月25日の月の無い晩、呉服屋の番頭・五郎兵衛は島田町にある強欲で有名なお仙という金貸しをしている老婆の家の前を通りかかった。家の中は真っ暗で人の気配も無い。その家の裏藪から、白いものが1枚、2枚と空に飛んで行く。町で噂の白い紙はお仙の家から出ていたのだ。五郎兵衛はガタガタ震えながら家に帰った。紙舞の正体は、お仙が裏藪に捨てた取り立て済みの借金の借用書で、それが欲や憤りが沁み込み、紙舞となって空を舞っていたのだ。11月になると寝込んでいた人々は不思議なことに元気になったという。
(絵図:宙に舞う紙『稲生物怪録』より)

(「三州の河の住人」皆月 斜 山口敏太郎事務所)

参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou

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