サムは第2次世界大戦中にドイツ海軍の戦艦ビスマルクが撃沈された後、イギリス海軍の駆逐艦コサックが波間から拾い上げた「トラジマ猫」で、ドイツの戦艦にペットとして乗り組んでいたらしい。猫はそのまま駆逐艦コサックのペットとなったが、ちょうど5か月後にはコサックも沈んでしまった。しかし、サムは英海軍の空母アーク・ロイアルに拾い上げられ、再び命拾いするとともに、またしても軍艦のペットとして暮らすこととなったのである。
ただ、サムの空母生活は18日間しか続かなかった。なぜなら、空母アーク・ロイアルもまた、駆逐艦コサックが沈んだ17日後に潜水艦の雷撃を受け、翌日には沈没してしまったのだ。しかしながら今回もサムは生き延び、退艦した将兵とともに地中海のジブラルタル港へ送られたのである。
わずか半年ほどの間に、乗り組んだ3隻の軍艦が次々と撃沈され、しかしながら自らは生き延び続けたサムは、いつしか「不沈猫サム」と呼ばれるようになった。そして、類まれなる幸運と不運をもたらす猫として特別視され、再び軍艦へ乗組むことなくジブラルタル総督の預かりとなって、最終的には北アイルランドのベルファストで余生を送った。そして、サムは1955年に亡くなったとされる。
サムの物語は1980年代末に書籍で紹介され、またグリニッチの国立海事博物館でも「ビスマルクの猫・オスカー」として肖像画が展示されたことなどがきっかけとなって、近年ではネットでも非常に有名なエピソードとなっている。しかし、多くの軍事や海事の専門家はサムの実在に疑問を持ち、中には「都市伝説」と言い切るものさえ出てきている。
果たして、不沈猫サムは実在したのであろうか? (続く)