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不沈猫サムは実在したのか? (1)

 戦場においては、しばしば信じがたい幸運と不運があらゆる人や動物へ振りかかる。そのような幸運と不運の物語は人々の心を捉え、時には「感動的な良い話」として、広くもてはやされることもある。最近、海外のネットで話題になっている不沈猫サムの物語も、そのようにな「良い話」のひとつだ。

 第2次世界大戦の直前に進水、戦中に就役した戦艦ビスマルクは、当時の最新鋭かつ最大最強の不沈艦として(日本の戦艦大和就役したのは、ビスマルクが沈没した後)、ナチスドイツ海軍の象徴となっていた。しかし、大西洋上においてイギリス海軍と交戦、はじめは英戦艦を撃沈するなどの活躍を見せたものの、やがては圧倒され、最終的には多くの将兵とともに海の藻屑となった。

 ビスマルクは沈没直前までゆっくりと航行し続けたため、海上には退艦した将兵が点々と残されており、運良くイギリス軍艦へ救助された者もいた。そして、イギリス海軍の駆逐艦コサックは、波間で木箱へしがみついていた「トラジマ猫」を救助したという。この猫が、後にネットで有名になる「不沈猫サム」と言われている。

 最初、その「トラジマ猫」はオスカーと呼ばれていたらしい。英語の慣用句に「A cat has nine lives」とあるが、文字通り九死に一生を得たオスカーは、その後も数奇な運命をたどって、やがて「不沈猫サム」と呼ばれるようになる。

 しかし、なぜ戦艦に猫が乗り組んでいたのだろうか?

 不沈猫サムの物語を続ける前に、船乗り猫の説明を簡単にしておこう。

 帆船時代より、猫は船に巣食うネズミ退治と幸運のお守り、そして乗組員のペットとして、様々な船で飼われていた。近代の軍艦も例外ではなく、特に英米海軍ではマスコットとして提督や首相などと広報写真に収められたり、勲章を授与された猫もいるほど愛されていた。しかし、英海軍は1975年に洋上の艦船で動物を飼育することを禁じたため、現在では乗り組んでいない。

 ドイツにおいても、潜水艦などに乗っていた猫に関する第2次世界大戦中の逸話が残されており、戦艦に「トラジマ猫」オスカーが乗り組んでいたとしても、さほど不自然なことではなかった。もちろん、救助した英海軍の将兵も、奇妙なこととは思わなかったであろう。

 そして、オスカーは救助した駆逐艦コサックのペットとして、新たな猫生を送ることとなった。(続く)

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