町の中心にあるその山はプーシーの丘と呼ばれ、頂上には金色に輝く塔が建つ。夜になるとライトアップの光が反射し、より一層存在感を増す。高さは150m。町を一望するには十分な高さだ。私も夜景を拝もうと傾斜のきつい石段を登り始めた。
中腹まで行くと森の中に寺院が建っていた。ラオスは熱心な仏教国。町では出家したお坊さんをよく見かける。そしてこの寺にも1人、袈裟を着た坊さんが縁側に腰掛け、熱心にスマホの画面を連打していた。ゲームに夢中になっているようでこちらの視線には気が付いていないようだ。坊さんがゲームをしてはいけないなんて決まりはどこにもないが、やはりそれはどこか滑稽で笑わずにはいられない。それにしてもなんというスピード。竜巻旋風脚ぐらい繰り出していてもおかしくない程だ。
「いや、坊さんだからダルシムか?」
頂上は展望台になっており、景色を眺めるカップルなどで賑わっていた。西洋人の姿も多く、何人かと話をした。しかし私はどうも彼らの名前を覚えることができない。イメージでイカしてる奴はブラッド、そうでもない奴はトムと勝手に頭の中でそう呼んでいる。
写真を撮ろうと、良さそうなポイントに向かうとそこには1人の男が黄昏ていた。名前はトムとしておこう。いくら待ってもトムはただひたすらに黄昏ている。やっと立ち上がったかと思うと携帯で写真を撮り、再び自分の世界に戻ってしまう。
「おいトムよ、お前は地元のブラッドやキャロラインとかに写真を見せるのだろうが、私は記事にするため1枚しっかりしたものを撮らなければならんのだ」
そうボヤきながらトムの横顔をパシャリ(写真掲載の許可を取る前にトムはどこかに消えました)。後で確認してみるとなんだかいい絵になっている。見直したぞトム。でもブラッドとまではいかないので、アレックスくらいにしておこうか。元中日の伝説の強肩センターと同じですぞ。喜べトム。
肝心の夜景はなんというか、メリハリのない感じだった。そもそもそれほど大きい町ではないため、どの方角を見ても同じ量の光がパラパラと見えるだけだ。だが夜が深くなり暗がりに包まれるとその見え方は変わる。
広い広い山岳地帯にぽつんとあるこの町。光と闇の境目がすぐ近くにはっきりと見えるのは不思議な感じだった。丘を中心に半径約2kmに散らばる灯り。その先は地平線まで暗い森が生い茂っている。まるでプカプカと浮かぶルアンパバーンという宇宙船に乗っているかのようだった。
【画像】Drouyn Cambridge
國友俊介
【プロフィール】
國友俊介 (くにとも・しゅんすけ)
旅×格闘技、アジアを自転車で旅をしながら各地のジムを渡り歩いている。目標は世界遺産を見ることではなくあくまで強い男になること。日本では異性愛者でありながら新宿2丁目での勤務経験を持つ。他にも国内の様々なディープスポットに潜入している。
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