ということで今回は香港の夜を我が身1つで牛耳るカンフーマスターをご紹介する。と言いたいところだが、そんなヒーローみたいな奴が簡単に見つかるわけもなく、私は夜の公園で週1回行われている太極拳の練習会に参加することにした。よく分からないが、まあ似たようなもんだろう。
MTRの太子駅(プリンスエドワード)を降りて、10分ほど歩くと大きな公園が見えてきた。バスケットコートやサッカーゴールが並び、元気そうな若者達が汗を流している。その奥に見えるのは、ベンチに腰掛けて談笑するお年寄りたち。20人くらいはいるだろうか。
「あれか?」
想像と随分違うがたぶんそうだ。今考えれば勝手な妄想だが、バッキバキの猛者たちが木をスネで蹴り倒そうとも、その「気」とかいうやつでモノともしない。そんな光景を思い浮かべていたのでなんだか拍子抜けだ。正直サッカーの方が面白そうである。
「あ、すいません。今日お邪魔させていただく予定の者なんですけど」
「いらっしゃい! よく来たね!」先生らしき人が大声で迎え入れると、それに次いで周りの老人達も握手を求めてくる。
大げさだなあ、そんな感じじゃないんだけど…。一通り自己紹介を終えた後やっと練習が始まった。稽古は至って地味だ。先生の動きにならって順番に型をとっていく。完璧に体に染みついているベテランもいるが、ほとんどはぎこちなく間違えると少し恥ずかしそうにしている。当然「気」なんてものは感じられたもんじゃない。
そしてやけに長い。全部で30分くらいはあっただろうか。途中で飽きてしまい動画や写真を撮り始めると何人かが「No! No!」と叫び手でバッテンマークを作っている。中には首をかしげて苦笑いをするおばあさんもいて、かなり顰蹙を買ってしまったようだ。それにしても何という剣幕。まるでパパラッチにでもなった気分だ。
私の「なんだこれ感」が顔に出てしまっていたのか、最後に先生から「タイチー(太極拳)はスポーツではなく文化なのですよ」と教えを説いて頂いた。
國友俊介
【プロフィール】
國友俊介 (くにとも・しゅんすけ)
旅×格闘技、アジアを自転車で旅をしながら各地のジムを渡り歩いている。目標は世界遺産を見ることではなくあくまで強い男になること。日本では異性愛者でありながら新宿2丁目での勤務経験を持つ。他にも国内の様々なディープスポットに潜入している。
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