インドネシアのスマトラ島メダン。標高2145mのシバヤック山の中腹に、すり鉢状の穴がある。直径2000m、最深部300mの巨大な穴はスアラ・ナラカ(地獄の声)と呼ばれ、地元の人々は決して近づかない。昔から「命が惜しければ近づくな、悪魔が住み地獄の声が聞こえ、恐ろしい死を遂げる」と伝えられているからだ。現に動物も怯えたように近づかず、植物さえ生えていない。
1956年。アメリカの探検隊がスアラ・ナラカに初めて挑んだ。地上で7人が待機すると、測量士が穴の底へと降りて行った。穴の斜面は砂地で、毒性の物質は含まれていない。底近くには、蜂の巣状に横穴が並んでいた。すると突然、測量士が悲鳴を上げた。調査を中断し、地上に戻された測量士は顔面蒼白で、そのまま、頭を抱え込むようにして倒れた。現場は言いようのない不安感に包まれたが調査は続行、もう1人待機していた地質技師が底へと降りて行った。5分後、ついに穴の底へ辿り着いた地質技師だが、測量士と同様、悲鳴を上げた。すぐさま地上へ引き上げられたが、既に気絶していた地質技師は三半規管が全く駄目になっており、意識回復後も、気がふれたまま正気に戻ることはなかった。
付近では遭難や航空機墜落が多かったため、周辺を調査し穴で録音されたテープを分析したところ、低周波音が検知された。低周波音が底付近の蜂の巣状の横穴や、すり鉢状の穴に反響し合い、異常な変化を起こしているのではないかと言われている。
(七海かりん/山口敏太郎事務所)