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ナイトワークのオンナたち第15回・キャバクラの裏方スタッフは皆、男性?

 12年前のキャバ嬢で、現在はキャバクラ研究家の菊池美佳子です。皆さんは、「やり手」「飯炊き」「縫い子」という言葉を聞いたことがありますか? おそらく、ほとんどの人は聞いたことがないと思います。江戸時代の言葉ですから。当時は、地方の貧しい農村などの娘が、借金の肩代わりに吉原に売られるということが珍しくない時代でした。

 さて、売られてくる娘たちは、全員が器量が良いというわけではありません。美人の娘でしたら、人気遊女になることも可能ですが、中には不器量な者も売られてきます。そういった娘たちは、どうするのか? 現代のキャバクラ同様、お客がとれなければ価値がないとされる世界ですから、そういった娘たちは、食事を作ったりお針子をしたりする裏方に回されていました。そういった雑用係には、歳をとって、もう客をつることが出来なくなった助成も回されていたようです。

 現代には、もちろんそういったパターンはほとんどありません。キャバクラの裏方スタッフは、ほぼ全員が男性です。何故か? 理由は、「裏方さんが女性だと、表で働いているキャバ嬢さんがやりづらい」というごく単純なものです。キャバクラは、「女性であること」をウリにする世界ですから、その裏方が同性というのは、うまくいかないのでしょう。余談ですが、「スナックやクラブなど、ママがいるお店がイヤだからキャバクラで働いている」というキャバ嬢さんも少なくありません。

 しかし、とある店に「裏方」として働く女性がいました。「浅見」と呼ばれていた彼女の主な仕事はドライバー、つまり閉店後にキャバ嬢さんたちをクルマで送る送迎の役割を果たしていました。送迎ドライバーは、たいていはアルバイトであることがほとんどなのですが、浅見はそれ以外にも、開店前の買い出しなどにも従事していましたから、どうやら正社員として裏方業務に携わっているようでした。

 外見的には、かなり肉付きのいい体格をしていて、髪型はショートカット、服装はトレーナーにジーパンなど、全く女性的でない格好でした。だからこそ、女性でありながら裏方に従事することが出来たのかもしれません。浅見が、若くて可愛らしい女の子だったら、送迎されるキャバ嬢さん達としては、だいぶやりづらいでしょう。

 とはいえ、キャバ嬢さんたちから浅見に話しかけることはありませんでした。浅見はいつも無愛想でしたので、話しかけにくかったのかもしれません。浅見のほうからも、キャバ嬢さんたちに話しかけることはありませんでした。ですが、待機席では、浅見の話題が出ることがたびたびありました。「今でこそ見る影も無いが、実は元キャバ嬢だったらしい」「いや、実は幹部の奥さんらしい」「いやいや、もしかしたら男なのかもしれない」…噂が噂を呼び、浅見に関する七不思議のようなものまで出る始末…。結局、キャバ嬢のうちの1人が男性従業員に訊ねたところ、なんと浅見は元キャバ嬢とのことでした。引退して十年以上経つようですが、なぜ裏方の仕事をしているのかは聞き出せなかったとのこと。もしかしたら、貴方が通っているキャバクラの裏方にも、浅見のような名物スタッフがいるかもしれませんよ。(キャバクラ研究家:菊池美佳子)

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