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球界地獄耳・関本四十四の巨人軍、ダッグアウト秘話(5)

 「記憶に残る長嶋」「記録の王」と言われたONだが、あの天覧試合にもそれがよく現れているよね。長嶋さんが阪神のエース・村山から放ったサヨナラホーマーは、数ある長嶋伝説の中でもナンバーワンにランクされ、ファンの間で永遠に記憶され、語り継がれていくだろう。打たれた村山さんが死ぬまで「あれは絶対にファウルだった」と言い続けてきたことでも、伝説のドラマ性が高まったよね。

 が、あの天覧試合でルーキーの王さんもホームランを打っているんだよ。意外に知らないファンもいるけどね。実は、ONアベックホーマーの記念すべき第1号なんだ。そう考えると、ある意味で「記憶に残る長嶋」「記録の王」にふさわしい天覧試合といえるだろうね。
 ここ一番で無類の勝負強さを発揮した長嶋さんの打法の源になっていたのが、速射砲のようなティー打撃だった。次から次へとボールを上げさせ、息もつかずに打つ。誰もまねの出来ない芸当だった。
 イチローの背中がねじ切れるのではないかと思われるティー。高橋慶彦(現ロッテ二軍監督)の超ダウンスイング、バットを右肩から右ヒザにぶち当てるようなティー。この三大名物ティーはアマチュアの選手たちの参考書として、ビデオで残しておきたいよね。一本足打法の王さんの方は、速射砲の長嶋さんとは全く違っていた。ティーをやらずに徹底したスイングで形を作っていった。これまた中途半端な素振りの数ではなかったよね。
 数々の伝説を作った長嶋さんなのに、面白かったのは、バットには意外に無頓着なのに、グラブの方は見たこともないほどすごかったことだ。運動具メーカーの長嶋さん担当が牛の骨を使ってバットをしめたりしていたが、本人はひびが入ったバットで平気でタイムリーを打ったりする。
 ところが、グラブの方は、まさに名手のグラブだったね。手にしてみると、ボールが吸い込まれるような形をしている。あんなすごいグラブを見たのは、最初で最後だったね。
 この名人グラブにまつわることで忘れられない笑い話がある。オレがマウンド上にいて、走者が三塁にいる。ベンチの牧野さん(V9参謀といわれた故人の牧野茂氏)から「スクイズがあるかもしれないから」とけん制のサインが出る。そうすると、長嶋さんは何気ない顔でグラブを外す。けん制取り消しのサインだ。
 が、またベンチからサインが出る。オレがけん制しようとすると、長嶋さんは何食わぬ顔でまたグラブを外す。最後にはベンチの牧野さんと監督の川上さんは顔を見合わせ、苦笑してサインを取り消すしかなくなる。要は、けん制球を受けるのが嫌なんだよね、長嶋さんは。
 マウンド上のオレも長嶋さんとベンチの再三のやりとりに苦笑するしかなかったよ。記憶に残る長嶋さんの秘話には、こんな笑い話も数限りなくある。

<関本四十四氏の略歴>
 1949年5月1日生まれ。右投、両打。糸魚川商工から1967年ドラフト10位で巨人入り。4年目の71年に新人王獲得で話題に。74年にセ・リーグの最優秀防御率投手のタイトルを獲得する。76年に太平洋クラブ(現西武)に移籍、77年から78年まで大洋(現横浜)でプレー。
 引退後は文化放送解説者、テレビ朝日のベンチレポーター。86年から91年まで巨人二軍投手コーチ。92年ラジオ日本解説者。2004 年から05年まで巨人二軍投手コーチ。06年からラジオ日本解説者。球界地獄耳で知られる情報通、歯に着せぬ評論が好評だ。

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