問題の物件は東京都中央区内の超高層タワーマンションである。完成間近のマンション建設現場で、建設会社社長が作業員の男性の頭を蹴り、死亡させた事件が起きた。社長は安全靴でヘルメット越しに作業員の頭を蹴り、作業員は頭部打撲で死亡した。
引渡し後のマンションの敷地内には、ヘルメットを被った作業員の自縛霊が現れるという。大規模工事で人柱にさせられた人物や事故死した人物が幽霊となって現れる話は全国各地に存在するが、これもその一種になる。作業員死亡事件との関連性は不明だが、今年7月に大阪のスピリチュアル・カウンセラーが出張霊視鑑定も行っており、霊的スポットと化している。
新築の超高層マンションは人工物の極致であり、一見すると魑魅魍魎の闇の世界の対極に位置するように思われる。しかし、実は超高層マンションには怨念が集まりやすい。
第一に、建設作業員にとって超高層マンション住民は怨念の対象になる。人柱が幽霊になる話は多いが、自らの村を洪水被害から守るための堤防建設で人柱に志願したようなケースでは霊になることはない。
反対に自分とは無関係な工事受益者の利益のために犠牲にさせられた場合、怨念となり、幽霊になる。高層マンション住民と現場作業員は、ある意味で現代の格差社会の両極である。報われなかった作業員の怨念が「勝ち組」的生活を謳歌するように外部からは見える高層マンション住民に向かっても不思議ではない。
第二に、高層マンション住民は強いストレスに晒されている。そのために高層マンション住民自体が幽霊を呼び寄せ、幽霊を見やすくなる心理状態にある。住民の抱えるストレスは生理面と心理面の両面が存在する。
まず生理面である。高層マンションの居住は生理的な影響を強く受けている。高層階は揺れが大きく、騒音も伝わりやすい。また、コンクリートで囲まれた高気密な室内は外気が入らず、ダニやカビが発生しやすい。そのために超高層マンション住民は、自覚の有無を別として生理的なストレスに直面している。実際、高層階居住者ほど流産や死産の確率が高くなるという研究結果もある。
次に心理面である。高層マンションでは住人が事実上、序列化される。高層階ほど分譲価格や家賃が高くなることは誰でも知っている。住民は暗黙のうちに居住階によって他の住民と比較される。「馬鹿と煙は高いところに上る」の言葉通り馬鹿げた話であるが、高層マンションに好んで居住する層は経済面での比較意識が人一倍強い傾向がある。
社宅暮らしは会社の序列が近所付き合いに持ち込まれるからストレスになると指摘される。それでも社宅には同じ会社の従業員という帰属感や連帯意識があった。ところが、高層マンションでは帰属感も連帯意識もなく、経済的序列だけが厳然として存在する。声に出せない住民のストレスは社宅の非ではない。
第三に、高層マンションは周辺住民の怨念を集めている。高層マンションは周辺の住環境を破壊する。日照や眺望を奪われ、ビル風の被害に遭った周辺住民の怨念は高層マンションに向けられる。これは日々の生活で受ける被害であり、生活を続ける限り、継続する怨念である。
このように高層マンションでは怨念が渦巻き、蓄積されやすい。幽霊が実在するとすれば、中央区の高層マンションでは作業員が殺されるという明確な事件によって、怨念が具現化したと考えられる。
(『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』著者 林田力)