G1の女神は新日きっての苦労人に微笑んだ。連敗スタートから脅威の逆襲劇で予選リーグを突破し、準決勝では杉浦貴に血だるまにされながらも、なんとか2年連続で決勝進出した真壁。新必殺技ボマイェを武器に予選から無傷の7連勝で勝ち上がってきた難敵・中邑真輔との頂上決戦に臨んだ。
因縁の相手だった。2005年のG1では中邑戦でアキレス腱を切って途中欠場。その後は長期欠場を余儀なくされ「あー、これでG1も終わり、選手生命も終わりだと思った」が、そこから這い上がってこの日の決勝の舞台にたどりついた。
だからこそ自信に満ち溢れていた。ゴング前には「ナカムラさんよ、俺は本間を外すぜ」と盟友の本間をセコンドから退席させたほか、代名詞のチェーンも本部席に預け、実力勝負を提案。その心意気に大「マカベ」コールの後押し。一昨年のベスト4や昨年の準優勝は、チェーン巻きラリアートを使って結果を残してきたが、今年はラフファイトを捨て、クリーンファイトで正々堂々闘った。
のっけから中邑のえげつない蹴りをテンプルに食らい、赤鬼のように額が鮮血で染まったが、何度となくゾンビのように立ち上がった。思えば今大会すべて勝った試合は血だるまにされてから。「断崖絶壁、追い込まれるほど燃える」というように、15分以上もサンドバック状態になりながら、終盤に防戦一方の展開を一気にひっくり返した。
中邑の飛びつき腕十字、執ような蹴りで右腕が悲鳴をあげたが、その右腕を鼓舞してラリアートで反撃。たちまち形勢逆転するとスパイダージャーマンからキングコングニー2連発の必殺フルコースで難敵を沈め、真夏の最強戦士の勝ち名乗りを上げた。
G1初制覇により、9・27神戸大会ではIWGPヘビー級王者・棚橋弘至への挑戦権ももぎ取ったが、その一方で狙われる存在にもなった。試合後にはバックステージでZERO1の夏男こと「火祭り」王者の崔領二から“夏男決定戦”を要求され、すぐさま「いつでもやってやる」と呼応した。
デビュー13年目のレスラー人生を物語るかのようなG1だった。開幕2連敗から大どんでん返しで栄冠をつかみとった。新日プロに入って初めて最強の称号を得た暴走コングは柄にもなく感慨にふけった。
「俺は入門したとき、高田延彦からベルト獲ってヒーローだった橋本真也に憧れたよ。武藤でも、蝶野でもねぇ、橋本なんだよ。アノ人に食らわされたこともあるけど、早くあの位置に行きてぇと思ってやってきた。まあ俺が付き人やってたアノ人(佐々木健介)も一緒。でも次IWGP獲ったら並ぶ。いまの俺の夢は先人たちを追い抜くことだ」
36歳の遅咲きだが、なかなか芽が出なくとも決して腐らず、歯を食いしばって突っ走ってきた13年が、この夏ようやく実った。「俺は去年、一昨年とG1であと一歩のところまで行って、ナイガイ賞も2年連続でかっさらった逸材だ。俺の時代はすぐそこだったんだから、今年はそれが結果として優勝になったまでだ」と暴走コングは胸を張った。
チャンピオンにはホロ苦い夏となった。予選リーグ最終戦では憎きZERO1田中将斗を下し、準決勝に駒を進めたIWGPヘビー級王者の棚橋弘至。
この日は永遠のライバル中邑から危険度MAXの雪崩式ランドスライド、ボマイェを食らって立ち上がれなかった。試合後は「一番負けたくない相手に負けちまった。この悔しさは絶対忘れねぇ」とポツリ。
ただ、激戦の代償は大きく、右目眼窩(がんか)底骨折を負ったことから、きょう17日に精密な検査を受けることになった。9・27神戸大会の次期防衛戦はおろか、戦線離脱や最悪の場合は王座返上も想定される事態。チャンピオンに暗雲が垂れ込めた。
ノアの杉浦が、初参戦ながらベスト4入りを果たし、内外タイムス賞に輝いた。予選リーグ最終戦では、同点で並んだディフェンディング王者・後藤洋央紀を超危険な雪崩式の五輪予選スラムで破ったが、この日の準決勝では真壁に悪戦苦闘。最後はキングコングニーを被弾して無念の3カウントを献上した。
納得のいかない結末に「何の賞かと思ったらナイガイって、まるで俺が風俗好きみてーじゃねーか。テメェ俺に恥かかせやがったな、オラァ! ナイガイ賞なんて金になんねぇ。1000万ねーのか」などと八つ当たり。