試合後、ウェッジ監督に報道陣の質問が集中した理由は、イチローが試みたセーフティーバントにある。失敗後の攻守交代の短い間だが、同監督はイチローのもとに歩み寄り、会話を交わしている。「何を話したのか?」を質問されたのだ。
「(相手の)三塁手が後ろに下がっていたし、(次打者に)繋いでいきたいと考えたのだろう。ベストの選択とは思わない。彼ほどの打者なら、2アウトの得点機会ではスイングしてほしかった。彼は私の言うことを分かってくれたし、いい話し合いができたと思う」(共同通信配信記事等より抜粋)
同監督のコメントに対する解釈は、各紙によって異なる。日本の報道は事実関係を伝えただけだが、米国人メディア、米地元紙記者は「もう暫く2人の様子を見る必要がある」と、慎重な捉え方をしていた。
「ウェッジ監督は『いい話し合いができた』と答えた後、詳細を聞き返されています。『詳しくは言えない』としつつも、『彼にも話をして理解してもらえた』と言い直しました。『理解してもらえた』という言い方が気になります」(米国人メディアの1人)
イチローは「あの場面でセーフティーバントを選択したことは間違っていない」と思っているのではないだろうか。同日のイチローはご機嫌斜めで、ノーコメントだった。「理解してもらえた」の監督発言の真意は、「お互いの考え方、意見を確認し合っただけ」なのか…。
「ブルージェイズの三塁手は新人でした。イチローの俊足は分かっていたはずですが、前進守備のシフトではありませんでした。イチローは瞬時に状況判断ができる選手です。三塁手の守備位置を見て、セーフティーバントが閃いたんでしょう」(現地関係者)
今シーズンの個人成績表を見てみると、イチローが2アウトの場面でセーフティーバントを試みたのは、これで3度目。過去2回は成功と失敗の両方だ。仮にウェッジ監督と考え方を受け入れられないとしても、感情的な衝突に発展するとは考えにくい。しかし、こんな声も聞かれた。
「4番のマイク・カープなどマリナーズは若手が頭角を現し、世代交代が加速しています。調子を落としたベテランはスタメンを外されたり、途中交代させられたりしています。イチローも気分転換の名目でスタメンを外されるのでは…」(前出・同)
前人未到の11年連続200本安打は、米メディアも注目している。「気分転換で休め」という指示が出たら、どうなるのか…。
「イチローも試合のなかで調整していくタイプです。メジャーでは調子の落ちたベテランにはリフレッシュ休暇を与えることで復調を促しますが、ウェッジ監督はイチローのそういう調整方法を理解しているかどうか疑問です」(現地特派員の1人)
200本安打への道程は、さらに厳しくなる。イチローから歩み寄らなければ、「考え方の違い」は記録達成の大きな障害となるだろう。
※メジャーリーグの球団名、人物名のカタカナ表記は『メジャーリーグ選手名鑑2011』(廣済堂出版)を参考にいたしました。