が、65年は首をかしげたくなる。前年度無冠の長嶋さんが400万円アップの1800万円。55本塁打を放ち、シーズン本塁打の日本新記録を樹立、打点王にもなった王さんは440万円アップの1440万円にとどまっている。なぜなのか。64年は東京五輪の年で、協力体制を敷いたプロ野球は開幕を1カ月も早めたが、巨人は3位に終わっている。それなのに、史上初の観客動員200万人突破という大記録を作っている。そう、長嶋人気が評価され、無冠でも異例の440万円アップにつながったとしか思えない。
首位打者こそ惜しくも中日・江藤慎一(故人)に譲ったものの、もう一歩で3冠王。しかも、南海・野村克也(現楽天監督)が記録したシーズン最多本塁打記録52本をわずか1年で更新して55本塁打、打点王と併せての2冠王は特筆される。それが、無冠の長嶋さんよりもわずか40万円多いだけのアップでは球団側に対する不信感を抱くのも当然だろう。「記録の王」よりも「記憶の長嶋」を高く評価する巨人軍の不文律は、ONコンビ解消の最終年まで続いた。
66年は前年無冠の長嶋さんは現状維持の1800万円。4年連続の本塁打王、2年連続打点王の王さんは260万アップの1700万と、年俸差は最接近している。67年の年俸はまた王さんサイドからしたら、不可解な差がついている。前年に3年ぶり、通算5度目の首位打者になった長嶋さんは破格の1400万円アップの3200万円。5年連続の本塁打王、3年連続の打点王とまたもや2冠王になった王さんの方は、500万円アップの2200万円と1000万円の大差になったのだ。
さすがに球団側もONの歴然たる格差をまずいと思ったのか、68年は3200万円と初めてONの年俸を横並びさせている。前年の成績が無冠の長嶋さんの現状維持に対し、5度目の2冠王の王さんは初めて4ケタの1000万円の大幅アップを勝ち取った。が、それもつかの間だった。翌69年から73年までは長嶋さんの上位が続く。
前年、5年ぶりに打点王を奪取した長嶋さんが69年には940万円アップの4140万円。初めて首位打者になり、本塁打王との2冠王になった王さんは、半分以下の400万円アップで3600万円。その差540万円になった。70年も大差ない。2年連続の打点王の長嶋さんが420万円アップの4560万円。2年連続首位打者、8年連続の本塁打王の王さんは480万円アップの4080万円。71年は球団側がONの年俸が天井まできたと判断したのか、ともに抑えられている。3年連続打点王の長嶋さんが現状維持の4560万円。3年連続首位打者、9年連続の本塁打王の王さんも小幅の180万円アップの4260万円にとどまっている。
72年は、前年5年ぶりの首位打者の長嶋さんが360万円アップの4920万円。10年連続の本塁打王、4年ぶりの打点王の王さんは現状維持の4260万円に据え置かれている。73年には前年無冠の長嶋さんが現状維持の4920万円。本塁打王、打点王の王さんは540万円アップの4800万円だった。