静の仕上げだ。これまで実戦の前には一番時計を連発してきたメイショウサムソンが、ゆったりと最終調整を終えた。
「単走で終いだけ軽くやればいい。これまでのように速い時計を出す必要がないぐらい」と高橋成師はうなずいた。
宝塚記念の後、この秋は仏・凱旋門賞挑戦を早々と表明。しかし、馬インフルエンザ禍の影響をモロに浴びた。美浦の検疫厩舎に入ったまでは良かったが、なんとインフルエンザの陽性反応が出てしまった。幸い発症はしなかったため一縷(る)の望みを託し、福島競馬場に移動するという「裏ワザ」を繰り出したものの、それでもパリへの扉が開かれることはなかった。
その時点で秋の最初のターゲットは天皇賞に設定された。しかし、輸送制限などもあり、アクシデント後のぶっつけ本番でどこまで仕上がるか。520kg近い大型馬だけに不安が募ったが、見事な仕上げを施された。
あばらがうっすら浮き上がる研ぎ澄まされた褐色の馬体。新コンビを組む武豊が騎乗した17日の1週前が圧巻で、休み明けの不安は皆無といっていい。
宝塚記念は悔しい結果に終わった。皐月賞、ダービーと退け続けたアドマイヤムーンに競り負けた。だが、当時とはデキが違うと師はいう。
「(目いっぱい走った)春の天皇賞の後で、やっと間に合った感じだったあの時より、状態は数段いい。きっちり体調さえ整えば、それに見合った競馬をしてくれる。体が引き締まっている今回は十分力を出せるでしょう」
舞台は東京。ダービーを制した思い出の場所だ。しかも今回は<2100>とベストの2000mで戦える。前走まで鞍上を務めた石橋守が「2000mなら思い通りの競馬ができるし、勝負どころからの反応が違う」と絶賛していたほど。子供のころから仲のいい後輩・武豊にもその感触は伝えられているはずだ。
その武豊にとってもアドマイヤムーンは、主戦から下ろされるという苦い経緯があった。
絶対に負けられない戦い。人も馬も、この勝負にかける思いは強い。
【最終追いVTR】DWコースで6F84秒8、上がり3F38秒7→12秒2(馬なり)。1週前にビッシリ追い切られている関係で、今朝は軽く息を整えただけ。それだけ体ができている証拠で、最後まで武豊の手綱はガッチリと抑えられたままだった。馬体の張りは文句なし。久々も100点満点の仕上がりだ。