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都400億円負担をあざ笑う ナイナイ尽くし新国立競技場の前途多難

 東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場に、東京都が395億円(他に周辺整備費53億円)を支出することになった。総工費の上限とする1550億円の半分は国が負担、残る半分を東京都と日本スポーツ振興センターが運営するスポーツくじ(toto)が折半負担し、今月末の入札決定を待って工事に着手する。
 新聞・TV報道は総じて好意的だが、総工費をめぐっては二転三転した経緯があり、官邸主導で決めた上限1550億円について複数のゼネコン関係者は「この枠内で収まるわけがない」と斬って捨てる。2020年1月の完成を目指しているが、その間に建設費がもっと膨らみ、国や東京都が追加負担を強いられるのは必至。それが嫌ならば五輪開催を返上するしかないというのだ。

 鍵を握るのは、間もなく決まる再入札企業の対応だ。今回参加したのは、前回落札していた大成建設および竹中工務店を中心とするグループの2つだけ。下馬評では「大成優位」は動かない。白紙撤回を余儀なくされた前回、大成はスタンド工事(1570億円)を受注した。その手前、屋根工事(950億円)を受注した竹中に負けるわけにはいかないと、村田誉之社長が檄を飛ばしたのは広く知られている。
 しかし、上限が定められた今回は「バカ高」と非難された前回(総額2520億円)に比べ、約1000億円も安い。大成だろうと竹中だろうと、仕切り直しの入札に参加したゼネコンが1550億円の枠内で工事を完成させ、営利企業としてソコソコの収益を上げるのは不可能に近い。しかし、両社には究極の秘策があるとでもいうのか、新聞・TVなど大手メディアはこの点には沈黙したままだ。
 「'20年7月24日の五輪開催はもう決まっている。タイムリミットがある以上、受注したゼネコンは開催の“人質”を取ったようなもの。途中で『工事費アップがなければ、期限に間に合わない』と泣きつかれたら、政府だって首を縦に振るしかない。なまじ世間におもね、上限を設定したことが逆手に取られかねなくなってきたのです」(ゼネコン関係者)

 悪意の有無はともかく、問題はゼネコンを取り巻く環境の激変だ。東日本大震災やアベノミクスによる公共工事を追い風に、各社は好業績を謳歌している。これに伴い「熟練工や技術者など工事現場での人手不足が深刻さを増している」と担当記者は打ち明ける。
 「苦肉の策として定年退職者の再雇用に踏み切るケースが相次いでいる。これは下請けにも言えますが、現実には熟練者がドンドン去っていることから補充が追い付かない。彼らをつなぎ止めるには給料を上げ、待遇を良くすることが絶対条件です。当然、労務費は上がる。急増するコスト負担の下、1550億円を上限と言っていたら工事がサッパリ進まず、いよいよ開催が怪しくなってきます」

 東京湾のウォーターフロントは数年前から大規模開発ラッシュで、早くも資材不足が懸念されている。そこへ新国立の建設が本格化すれば資材・労力不足に拍車が掛かる。
 問題はそれだけではない。10月には横浜の大規模マンションで杭打ち偽装が発覚した。この手の偽装が全国的に横行しているのは疑う余地がない。結果、五輪のメーン会場となる新国立競技場はより丁寧な工事が要求される。もし手抜きした場合、五輪開催中に大地震で崩壊しようものなら世界中から非難されるだけでは済まない。だからこそ間違っても手抜きは許されない。
 金がない(制限される)、人出が足りない、資材が足りない…。加えて時間が制限され、余裕がない。おまけに手抜きが許されない、の“ナイナイ尽くし”の下、1550億円ですべての工事を賄うことなど「絶対に不可能だ」と前出のゼネコン関係者が指摘するのも無理はない。

 加えて、もう一つ悩ましい問題がある。工事費の半分を国が負担し、残りを東京都と日本スポーツ振興センターが折半負担することは前述した。ところがスポーツ振興くじ(toto)が395億円を調達すること自体、絵に描いた餅に等しい。totoは売り上げの5%を新国立の建設費用に充てる計画だが、昨年度の売上高は過去最高とはいえ約1100億円。その5%だから新国立には55億円しか充てられない。今後5年間(正味4年)、昨年度並みの売上高があったところで400億円の目標額には追い付かない。その穴は東京都と国が埋めるしかないのが実情なのだ。
 巨額支出に難色を示していた東京都の舛添要一知事は「経済効果などを考え妥当な金額を出した」と胸を張った。数年後、果たして知事や政府首脳はどう釈明するのか。ゼネコンはもちろん、都民=国民の関心は早くもそこへ移っている。

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