事の発端は先月29日、北条裕子氏が東日本大震災をテーマにして執筆した小説『美しい顔』について、東日本大震災のルポタージュ『遺体―震災、津波の果てに―』を始めとした数作と類似点が見つかったとして、掲載元となった講談社が、おわびと参考文献を6日発売の文芸誌『群像』8月号に掲載することを明らかにしたこと。
これに対し、『遺体―震災、津波の果てに―』の著者・石井光太氏は新潮社を通じて、北条氏と講談社から謝罪文を受け取ったとしつつも、誠意のある対応を求めるコメントを発表。また、新潮社側は「参考文献として記載して解決する問題ではない」と修正を求めるコメントを出していた。
これを受け、講談社側は3日、新たに発表したのは『美しい顔』の全文公開。講談社側が発表した文書によると、報道以降、『美しい顔』と著者に対する誹謗中傷がネット上で散見されるといい、今回の問題についてはあくまで参考文献の未表示と被災地の描写の一部記述の類似だとし、「その類似は作品の根幹にかかわるものではなく、著作権法にかかわる盗用や剽窃などには一切あたりません」とコメント。
さらに、新潮社側のコメントについては、「小説という表現形態そのものを否定するかのようなコメントを併記して発表されたことに、著者北条氏は大きな衝撃と深い悲しみを覚え、編集部は強い憤りを抱いております」と記し、「今後弊社としては、甚大なダメージを受けた著者の尊厳を守るため、また小説『美しい顔』の評価を広く読者と社会に問うため、近日中に本作を弊社ホームページ上で全文無料公開いたします」とした。
この異例の対応に、ネット上からは、「講談社思い切ったね。これで冷静な判断ができる人が増えると思う」「『美しい顔』は震災を被災者でもなく被災地の情報を一人称でイメージして書き上げたものに対する評価を受けてたのであって、それ覆されたら前提全部ひっくり返ってしまうんじゃ…」「無料公開って、作品さえ高い評価を受けられたなら、ツギハギされて作られても問題ないだろうということ?」という賛否が集まっているほか、文芸評論家の栗原裕一郎氏「『作者を守る』という意味では悪手としか思えないが、講談社も勝算があってやっているのだろう…」もコメント。また、小説家の盛田隆二氏もツイッターで「戦争小説を書く時、戦争体験記を参照します。行軍が何日続いたかなど事実を書くのは問題ないけど、兵士の心象まで引き写したらアウトですよね」とつづっていた。
なお、全文無料公開の時期は「近日中」となっている。第159回芥川賞は18日に選考会が行われる予定。
記事内の引用について
講談社公式サイトより http://www.kodansha.co.jp/
栗原裕一郎公式ツイッターより https://twitter.com/y_kurihara
盛田隆二公式ツイッターより https://twitter.com/product1954