わずか20名程が来場すれば満員になってしまう会場ではあったが、三人の生の声を聞かせるためにはこの位が丁度良いのかも知れない。体全体で表現するのではなく、声と雰囲気のみで観客を引き入れる演技力が必要とされる朗読劇。この『朗読Night』は初の試みという事もあり、まずはどこまで伝えられるかが試された形になった。
朗読されたグリム童話は「てなしむすめ」と「ヘンゼルとグレーテル」の二本。以前『本当は怖いグリム童話』という書籍が出版されていた事もあるが、この二つの話はまさしくそれに該当するものであった。
「てなしむすめ」でのそれぞれの役は、桐乃がメイン朗読・粉引きのおかみさん・王様の庭の庭師等、加藤は粉引きの男・王様、佐藤は主人公となる粉引きの娘。悪魔の声は三人が声を揃えて演じる。
貧しくなった一人の粉引きに老人が声をかける。「お前の水車の裏にあるものを私に差し出せ。そうすればお前を大金持ちにしてやろう」粉引きの水車の裏には一本の大きなりんごの木があり、粉引きはその木を差し出せば良いと思い、証文を書く。老人は3年後に貰いに来ると言い残し去っていく。老人の言う通り、粉引きは大金持ちになった。しかしおかみさんはそれが悪魔の仕業であり、差し出すものは粉引きの娘である事に気づく。信心深い娘はそれからの3年間を謹んで暮らしていた。
約束の期限が来る。娘は全身を洗い清めていた。悪魔は「娘の全身の水を落とせ、そうでないと私は娘に近づくことが出来ない」翌朝再び悪魔がやって来るが、娘はさめざめと泣きぬれてしまい、両手は涙で濡れている。清らかな両手を見て悪魔は「娘の両手を切ってしまえ、そうしないとお前を連れて行く」と粉引きを脅す。恐怖でついその通りにすると約束したと娘に告げた粉引き。娘は父親の言いつけを受け止め、両手を切り落とされる。悪魔はそんな娘を見て連れ去ることをすっかり忘れてしまい去っていく。粉引きは娘を一生大事にすると約束するが、「私はここにはいられません」と娘は一人家を去っていく。
旅に出た娘は王様に出会い、いっぺんで娘を好きになった王様は娘を妃にする。王様が戦争に行く事になり、悪魔の計らいによりまた娘は生まれた子供と共に城を出なければならなくなってしまう。信心深い娘は天使に見守られ、森の中の家で幸せに過ごす。神様の思し召しにより娘の両手は元通りになる。
戦争から戻った王様は妃と子供を捜す旅に出る。あちこち探してみるが見つからないうちに7年が経つ。やがてある森の中にある家を見つけ、妃と子供に再会し、城に戻って一生を楽しく過ごした−−。
あまり知られていないであろう「てなしむすめ」のあらすじをざっと綴るとこんな感じになる。周囲を白いレースのカーテンで囲まれ、少しの明かりが照らされている幻想的な空間で三人は切々と物語を読み上げる。主人公である粉引きの娘を引き立たせるには、他の役を演じる役者が重要となる。テンポよく朗読を続ける三人。
加藤いわく「初めて会ったのが昨日の練習の時だったんですよ」という三人であったが、すっかり打ち解けているようであった。
「ヘンゼルとグレーテル」では、メイン朗読・グレーテルを佐藤が、母親とヘンゼルを桐乃が、父親と魔法使いを加藤が演じる。特に声高な加藤は男性でありながら魔法使いの役が適役であったように思える。
貧しくなりすぎてしまうという最初からの展開はかなりディープな内容となってしまう。そんな中での母親は子供たちよりも自分たちの事を考えてしまう、現在でもほんの一部ではあるが問題となっている情勢を風刺しているかのようであった。くじけそうになりながら常に励ましあい、最後には幸せを掴み取るこのおとぎ話。大人が聞いても楽しめるのではないだろうか。
Office S.A.D. 征木大智(まさき・だいち)
【桐乃睦関連サイト】
劇団夢神楽:http://yume-kagura.info/
個人ブログ『**きりの・徒然・むつみ**』: http://ameblo.jp/remko/
舞台出演:2011年3月2日〜6日/中野テアトルBONBON ファンタジー小劇団“夢神楽”STAGE10
【佐藤香織関連サイト】
グループ・ファースト・エース: http://www.first-ace.com/
個人ブログ『佐藤香織の夢日記〜花咲く場所〜』:http://ameblo.jp/dream-hanakotoba-diary/
舞台出演:10月13日〜17日/シアターグリーンBOX in BOX THEATER 劇団旅藝人「飛火野漂流」