「石原氏と聞いたとき、これまでの様々な舌禍事件と軽率な行動が次々と頭に浮かんだ。どうしてこの人物に甘利氏の代わりが務まるのかと。誰がこの軽量大臣を仕掛けたのか、総理はお仲間なのでいいだろうが危うい、のひと言ですよ」(自民党関係者)
石原氏といえば、石原慎太郎元都知事の長男。その威光を笠に着てなのか、数々の失言騒動を引き起こしてきた。
直近では'14年の安倍内閣環境大臣時、福島第一原発の除染廃棄物中間貯蔵所候補地に絡み、反対の声に「最後は金目でしょ」と発言し大顰蹙。'12年にも同じく福島第一原発をオウム真理教になぞらえ“サティアン”呼ばわり。さらに『報道ステーション』(テレビ朝日系)で中国の尖閣諸島侵攻危機の度合いを聞かれ「攻めてこない。誰も住んでいないのだから」などと答え、その危機管理能力を疑われた。攻めにも弱く、'03年国交大臣時には道路公団民営化を巡り、道路族の猛反撃を受け涙目になっていた。
この“舌禍”と“軽量”ぶりに加え疑問視されているのは、その経済、財政への姿勢だ。
全国紙経済部記者が言う。
「安倍政権は、経済活性化で財政再建させる成長戦略派。その最前線の司令塔が甘利氏で、経産官僚を動かし法人減税なども次々に仕掛けて“スーパー経産相”と言われた。それに対し石原氏は、財政規律派で財務省寄り。直前まで自民党税調の副会長を務め、財務省の代弁者として軽減税率の適用範囲をできるだけ狭めようと暗躍した人です。それがアベノミクス成長戦略の司令塔になりうるのか」
となれば、石原氏の就任は、安倍首相の切実な希望からだったのか。
「確かに'99年当時、息の合う二世議員を中心に政策集団グループを立ち上げたのが安倍氏と石原氏。この2人に塩崎恭久厚労相、根本匠元復興相らが加わり、それぞれの頭文字を取って“NAIS”として暴れまくった。今でも4氏は、折に触れてプライベートでもゴルフや会食をする親密な間柄。それもあって、甘利氏辞任の窮地に幹事長経験もある石原氏の豊富な政治実績を頼ったという説もある。しかしそれは違います」
こう明かすのは、安倍首相を支える中核、自民党細田派の幹部。
「安倍氏は週刊誌による疑惑報道後、1月25日に甘利氏と約40分にわたり会談し、続投で行けると踏んだ。ところが、それを厳しく諌めたのは菅官房長官だと聞く。菅氏は東京地検が並々ならぬ勢いで事件化の意欲を見せているとの情報を、安倍、甘利両氏に伝えたという。さらに菅氏は、甘利疑惑のさらなる追加裏情報をも匂わせた。それで強気だった2人も完全に戦意喪失したと聞いています」
しかし、安倍首相も粘った。誰がポスト甘利役をこなせるのかと。
「その時、菅氏が強く推したのが石原氏。安倍氏は相当抵抗があったようです。もちろん石原氏とは今も仲はいいが、最近は警戒すべき相手でもある。というのも、'12年の総裁選での激突に加え、石原氏は財政規律派で財務省寄りなのは重々承知している。しかし、躊躇する安倍氏に菅氏は、『国会と捜査で甘利氏は早晩火だるまになる。それに耐えられる自信は私にはありません。こんな時、政治経験豊富な石原氏はベストです』と言及。そうした綱引きが週明けからずっと続き、安倍氏も甘利氏も28日ギリギリになって辞任の腹を固めたのです」(同)
本誌は先週号で、甘利氏の献金疑惑が吹き出した際、“安倍氏が近いうちに終焉を迎えると見切りをつけ、裏でポスト安倍への動きを猛然と仕掛け始めた菅氏が、ポスト安倍に橋下徹前大阪市長を担ぎ上げる”との動向を伝えた。その延長で菅氏は、さらに水面下で動いていたというのだ。
「続投にこだわる甘利氏の辞任を画策し、疑問符がつく石原氏をポスト甘利にゴリ押しすることで、安倍内閣の失速をさらに早めさせる動きです。首相の女房役に徹する姿勢を見せながら、実は後ろからバンバン鉄砲を撃ちまくっている」(党内事情通)
果たして今後、政局はどう展開するのか。
「甘利氏の疑惑は辞任で終わっていない。野党は甘利氏や献金会社関係者や接待を受けた秘書の国会参考人招致で疑惑を徹底追及する構え。これに加え、株安、そして安倍首相の健康不安説も再び飛び交っている。この3点セットでの安倍内閣の大失速は十分にある。政権が5月の伊勢志摩サミット、夏の参院選まで持たないとも囁かれだした今、早いうちの内閣総辞職や“甘利解散”もあり得ます」(政治部記者)
甘利氏というアベノミクスの要を失った今、「菅氏の動きに同調するかのような自民党内反安倍の動きも蠢きだしつつある」(前出・党内事情通)との情報もある。いよいよ終わりの始まりか。