例えば、相続人が2人の場合、いままで7000万円だった控除額が4200万円に変更される。この金額以上の相続財産があると、相続税が課せられる。そのため、昨年までは相続税がかかるケースは相続全体の4%に過ぎなかったが、その比率が倍増するだろうといわれている。さらに、地価の高い大都市では15%程度になるという説もある。
普通に考えれば、富裕層に大打撃を与える税制改正だが、実はそうならないように、きちんと対策が採られているのだ。
年末に発表された税制改正大綱では、子や孫への贈与税の非課税措置の3本柱が盛り込まれた。
一番目は、結婚・出産・育児資金として、祖父母や両親が、子や孫に贈与する場合、今年4月から一人当たり1000万円までの贈与税が非課税となる措置が新設された。
第二は、住宅取得資金を贈与した場合の非課税枠の拡大だ。特に、エコ住宅を取得した場合、'16年10月から'17年9月の間は、最大3000万円の住宅資金の贈与が非課税となる。'17年4月の消費税率引き上げをにらんで、住宅投資の落ち込みを防ぐという名目だが、3000万円という非課税枠は前代未聞だ。
そして三番目に、昨年末で終わる予定だった教育費の一括贈与に伴う非課税枠(最大1500万円)も'19年3月末まで延長されることになった。
この贈与税非課税の「3本の矢」は、最大で総額5500万円に達する。子や孫が2人いれば、1億1000万円を非課税で資産移転できる。相続税の基礎控除を圧縮する分をはるかに上回る生前贈与が可能になるのだ。
政府は、資産の世代間移転を推進して、消費を活性化するための手段だとしているが、問題は、贈与税の非課税枠を利用できるのが、実質的には富裕層しかいないということだ。
考えれば、すぐにわかるように、庶民は5500万円もの贈与は絶対にできない。そんな手元資金があるはずがないからだ。その結果、金持ちは生前贈与で相続税の課税を回避し、回避する手段のない庶民は相続税をがっちり取られるという構造になっているのだ。
なお、住宅を相続した場合、子供が同居している場合には土地の評価額を8割カットするという、とてつもない優遇制度もすでに存在する。評価額を2割にできるのだから、とんでもない減税になる。ところが、この制度を利用できるのも、実質的には富裕層に限られてしまう。なぜなら庶民は、子供たちと同居できるほど、広い家に住んでいないからだ。
税制というのは、最も大きな国家権力発揮の場だ。だから、その政権の理念が最も表れる。今回の税制改正は、どうみても庶民をムチ打ち、富裕層をさらに太らせる方向になっている。中流を打ち砕き、ほんの一握りの富裕層と大多数の貧困層に社会を二極化していく。それがアベノミクスの目指す社会構造なのだ。日本の一億総中流社会は、完全消滅に向かうだろう。ただ、それがグローバルスタンダードに従うということなのだ。