しかし、同ドラマのように「定時で帰ります」を合理的に可能にしている国がある。それはドイツだ。真面目で規律を守る点が日本人と似ていると言われているドイツ人だが、同ドラマを通して見ると、ドイツ人の働き方は日本人とは異なる部分がいくつかあるようだ。
ドラマでは東山が定時きっかりに仕事を終え、帰る場面が印象的だ。同僚たちは「割り切って帰れるのがすごいよね」と驚く。
しかし、ドイツではむしろ定時に帰らないほうが驚かれるのだ。ドイツは、日本とは違って、入社後に研修期間のようなものはなく、初めから自分には何ができるか採用時に仕事量を上司や会社と明確に決めている。そのため、仕事量や仕事にかかる時間、賃金が明確で、むしろ定時で帰らない人は仕事ができない人だとみなされるようだ。また、法律でも1日の労働時間は原則8時間と決まっており、仮に残業をせざるを得なくなっても最大2時間までしか許されない。もし残業をしたら、別の日に早めに切り上げ、残業した分の時間を相殺しなければならない。2時間残業したら2時間早く、1時間残業したら1時間早く切り上げるのだ。守らない場合は経営者が最大1万5000ユーロ(約180万円)の罰金を払うこととなる。
さらに、チーム意識が日本ほど強くない点もドイツ人の働き方の特徴だろう。ドラマでは、東山の先輩、賤ヶ岳八重(内田有紀)が張り切って仕事をしたあまりミスをし、チームに迷惑をかけてしまうという場面がある。賤ヶ岳はチームのリーダーということもあり、自分がやれることはないのに、責任を感じてチームの全員の仕事が終わるまで待とうとする。
同じ場面がドイツで起こったと仮定すると、間違いなく賤ヶ岳のポジションにいる人物は待つことはしないだろう。ミスを認め謝罪はするが、自分がいても、できることがないならさっさと帰る。無駄に待っていても、自分が疲れるだけで効率が悪いと考えるのだ。チームのメンバーも、何もすることがないリーダーがいるだけでは意味がないと思うようだ。両者に共有の意識があり、ミスした人が先に帰ることに対して違和感はない。
また、先輩と後輩の関係が薄いのもドイツの特徴だ。ドラマでは仕事にやりがいを感じず、自分は会社に必要とされていないと思う後輩が「辞めたい」と東山に切り出す場面がある。後輩の相談を受け、東山は後輩の長所を見つけ、後輩が辞めないように励ましている。
しかし、ドイツでは辞めたいという人を止めることはあまりない。そもそも、上司部下の関係はあるものの、先輩と後輩の関係性は薄く、日本の会社とは違って先輩が後輩を教育する期間は短いのだ。新入社員でもゼロの状態からではなく、大学在学中や卒業後に別の会社でインターンをして経験を積んでいる場合が多いので、最初からある程度の仕事を任される。それぞれの仕事を個々でこなすため、自分の面倒を見てくれる先輩という存在が生まれにくい。
ドラマ『わたし、定時で帰ります』は、日本の働き方としての新しい姿という声もある。すでに定時退社が普通になっているドイツから見習うべき点もあるかもしれない。