残り4試合となり、エースストライカーの一刻も早い復帰こそ、チームの逆転残留のカギとなることは明らかだ。
■残留争いの過酷な経験を活かして
武蔵はプロ一年目より残留争いを経験している。
2012年、アルビレックス新潟のルーキーだった武蔵は春先に公式戦初出場を果たすと、徐々に出場機会を増やしていく。Jリーグカップでは試合を決める劇的なゴールを挙げる等、頭角を現し始めた。しかし、チームはシーズン途中での監督交代が行われるなど最終節まで降格圏から抜け出せない状態が続いた。
シーズン最終戦、コンサドーレ札幌戦に勝利し逆転でのJ1残留を成し遂げたこの試合で武蔵は後半途中からの出場、試合終了のホイッスルをピッチ上で聞き、直後に訪れた「奇跡」をスタジアム全体で迎え入れた。
また同じく新潟在籍時の2016年も苦しみ抜いた一年だった。
降格した名古屋グランパスに勝ち点で並ばれるも、得失点差でわずかに上回り、チームはトップカテゴリーに踏みとどまる。ここでも最終節の広島戦、スタメンに名を連ねフル出場しチームを牽引した。また、終盤のアウェーでのジュビロ磐田戦、この年最後の勝利となったこの試合で終了間際、勝ち越しゴールに結びつくクロスを放っている。
本意では無いながらも、若くして残留争いの中の雰囲気や心境、さらに過酷さも肌身で感じてきている。それらの経験は昇格一年目で残留を争うV・ファーレン長崎を押し上げるための原動力となって余りあるはずだ。
■最後まで食らいつくその先に
9月15日の名古屋グランパス戦では強烈なインパクトを残した。5連敗中だったチームに勝利をもたらすハットトリックを達成し、実に1か月以上も遠ざかっていた白星を手繰り寄せている。また、残留争いのライバルでもあるとともに、得点ランキングトップのFWジョーを擁し猛威を振るっていた名古屋の勢いを武蔵のゴールでねじ伏せたことにより、この試合以降、さらに残留争いは混迷を極めることとなった。
武蔵の復帰時期は来月と伝えられている中で、長崎は現在最下位に位置している。しかしながら17位との勝ち点差は4と残り試合の中で追い抜く可能性は十分に残されている。9月以降のチーム成績は2勝2分け1敗としぶとく勝ち点を積み上げてきていて、次節の鳥栖との『決戦』を制することはもちろん、今後、背番号11が帰ってきたときにチームがどこまで他クラブに食らいついているかが最も重要となってくる。
チーム、そして武蔵自身にも最終節まで厳しい状況が続くだろう。それでも現在置かれているような苦しみの中でこそ起こる気がしてならない。長崎が残留という重い扉をこじ開けるとともに、武蔵が持つ、未だ秘めたままのその潜在能力が明らかになることが。(佐藤文孝)