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裏の激安物件から違法広告請負まで “怪しい電柱貼り紙広告”の裏側

 「広告は世相を映す鏡である」と昔からいわれてきた。テレビ、ラジオ、インターネット…広告媒体が数々ある中で一番古くから存在し、いまでもしぶとく生き残っているのは張り紙広告だ。ところが、広告代理店による内容審査も倫理綱領も全くない電柱張り紙広告の裏にはかなり危ない世界があった…。

 「詳しくはネットで」。最近の広告は、テレビ広告にせよ新聞や雑誌の活字広告にせよ広告の中で全部言いつくさず、自社のホームページに誘導するタイプのものが非常に多い。確かに、インターネットを検索すればありとあらゆる商品やサービスを紹介するホームページにたどり着ける。携帯電話版のホームページまで含めると、いまやネット広告の宣伝力は決して無視できないものになってきた。
 ところが、そんなデジタル広告全盛時代においても、ネット広告の対極に位置する広告媒体「貼り紙広告」はしぶとく生き残っているのだ。

 真夏の陽光が照りつける7月下旬、日本一の電気街である東京の秋葉原を歩くと中央大通り沿いの電柱に怪しげな張り紙広告を見つけた。縦4センチ×横6センチと名刺の半分ほどの大きさで、むしろ人目を忍んで目立たぬように張られたその広告には『格安入居 3万円〜人気の激安物件 保証人不用』(ママ)とあった。
 賃貸不動産広告らしいが物件見取り図はおろか所在地も書いていない。おまけに広告主の屋号もなく連絡先は携帯電話番号だけ。どう見てもうさんくさい張り紙だ。
 電話をかけてみると30代とおぼしき男が出た。「東京23区内で家賃3万円とはかなり安い金額ですね」と水を向けると、3万円で紹介できるのは一部屋に3人も4人も詰め込む相部屋のことなのだという。
 男の説明によると、都内にアパートやマンションを所有する大家さんから依頼を受け、1カ月〜半年待っても借り手が付かない“ワケあり物件”を住宅困窮者に紹介するのが自分の仕事で、秋葉原の電柱に張ったチラシは半年以上も前のものだそうだ。男が対象とする顧客はネットカフェ難民の卒業生、すなわちお金はないが、宿無し生活を抜け出し仕事を探すために生活の拠点を確保したい人たちだ。
 それゆえ、契約に当たっては連帯保証人や住民票は不要で、身分証明書さえ見せれば初期費用は家賃の倍額ですぐに部屋を借りられる。ただし、住環境までは保証の限りではない。男は「大抵の利用者は、仕事が見つかりいい給料を取れるようになると半年以内に出て行く。決して長く住めるような部屋ではなく、むしろ次に利用する人のために早めに部屋を空けてほしい」と本音を漏らした。事務所すら持たずに携帯一本でワケあり物件ばかりを仲介するとは実に怪しい商売だ。

 ところで、こうした張り紙で客寄せを図る業者がいる以上、その面倒を見る業者もいるはずだ。そう考えて都内で取材すると、豊島区の高田馬場駅周辺でそれらしき業者を見つけた。
 電柱に張られた真っ赤な張り紙広告には『チラシ配布 貼り お任せ』の文字。これまた連絡先は携帯電話番号のみで、しかも隣にはヤミ金広告という怪しさ。これらは同一業者なのか? 広告に記された携帯電話番号にかけると3コール目で「はい、○○です」と元気のいい五十絡みの男が出た。男が名乗った屋号は隣のヤミ金広告のものだ。関連を尋ねると「ああ、あの広告? ヤミ金は昔やってたけど今はもうやめた。ただ、借りたいという需要があれば知り合いの金融業者を紹介するので、広告だけは出している」と関係を認めた。
 肝心の張り紙広告代理業のことを尋ねると、都内ならA3サイズまで1枚50円で電柱に張ってやるという。最小ロットは1000枚からで1都3県の範囲なら郊外にも出張する。千葉市など東京以外の近県で張った場合は、出張料の意味で1枚につき10〜20円上乗せするのだそうだ。

 一方、ポスティングの場合は都内なら1枚5円と単価は安いが、大量にまかないと効果が出ないため、「最低2万枚なら引き受ける」という。この場合も1都3県の範囲で出張した場合、出張料としてポスティング費用に1〜2円上乗せする。
 いうまでもなく、電力会社に無断で電柱に張り紙をするのは違法行為。ポスティングについても、内容が風俗関係の広告である場合、住居への投函は禁止されている。
 「そりゃあ、張ってるところを警察に見つかれば捕まるよ。金融広告だったら捕まっても軽犯罪法違反で科料9000円で済むが、風俗絡みだと風営法に触れるから罰金10万円程度は取られるな」
 男は平然と言い放った。要するに客からもらう広告費用には捕まった場合の罰金額も織り込み済みで、逮捕覚悟でやっている商売なのだ。ただ、それほどのリスクを取る分、宣伝効果が高いかといえば、そうとはいえない。男は言う。
 「例えば金融広告を電柱に張ったって、反響は1000枚張って5〜6本電話があれば御の字だ。ポスティング広告はもっと悪い。広告は繰り返しが大切だが、都内の駅前だったら朝の7時か8時ごろまでには町内会のうるさ型の人や区役所に全部はがされて、1日どころか半日もたない」
 電柱張り紙広告、そこにはネット広告とは本気度が格段に違う深い闇が潜んでいた。

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