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森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」★ファーウェイ制裁は正しいか

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提供:週刊実話

 トランプ大統領は、5月15日、米国の安全保障の脅威となる企業の通信技術を米国企業が利用することを禁止する大統領令に署名した。名指しこそしていないが、事実上、中国の通信機器大手、ファーウェイを経済的に追い詰めるのが目的だ。その証拠に、米国商務省は同日に対イラン経済制裁に違反したとして、米国企業がファーウェイと取引することを事実上禁止する措置を発動している。

 制裁の表向きの理由は、ファーウェイが製造する通信機器や設備には、スパイウエアが含まれており、中国に通信情報を盗まれる恐れがあるというものだ。しかし、ファーウェイ側はスパイウエア組み込みの事実を全面否定しているし、ファーウェイの通信機器からスパイウエアが発見されたことは一度もない。つまり、今回の制裁は言いがかりに近いものなのだ。

 トランプ大統領が制裁に出たのは、ファーウェイの技術を恐れたからだ。ファーウェイは、’87年に中国・深圳に設立された企業。もともと携帯電話の通信設備を製造する事業から始めて、いまでは通信端末まで含めた幅広い分野で製造を行っている。スマホの生産では、すでに米国アップル社と世界2位を奪い合う地位にある。

 ファーウェイの一番すごいところは、その研究開発力だ。ファーウェイは毎年売り上げの1割以上を研究開発投資に回しており、研究開発費は1兆円を大きく上回る。その成果で、第5世代通信の技術では、世界最先端を走っている。第5世代通信は、自動運転やドローン制御など、様々な分野で必須の通信方式となるため、中国に支配権を取られたらたまらないというのが、トランプ大統領の本音だろう。そこで、とりあえず米国製の通信部品やソフトウエアのファーウェイへの提供を禁止し、同社の企業活動を抑え込んでしまおうという作戦なのだ。

 もちろん、今回の措置は、あくまでも米国製品の提供禁止だから、日本電機メーカーがファーウェイに部品を提供することは、問題がない。しかし、今後はそれさえも禁じられる可能性は十分ある。米国は、昨年8月から政府関係機関が中国製の通信機器の使用を禁じていて、米国に忖度する日本は、すでに政府調達からファーウェイを排除している。ファーウェイの通信設備を使用してきたソフトバンクも、すでにファーウェイ製の基幹設備の置き換えに着手したという。ところが、欧州でファーウェイ排除を決めた国はなく、ドイツはファーウェイを使い続けると宣言している。そうしたなかで、日本の対米全面服従は、突出しているのだ。もし今後、米国がファーウェイの通信端末の排除やファーウェイへの部品供給の停止を求めてきたら、日本政府はそれに従ってしまうのではないか。

 毎日新聞によると、ファーウェイが昨年購入した日本製品は7300億円にのぼるという。ファーウェイ完全排除は、とてつもない損害を日本産業に及ぼす。

 世界全体の視点で見ると、世界最先端の通信技術開発を続けるファーウェイを追い詰めることは、第5世代通信の進化を遅らせ、新しい産業の発展を阻害することになる。第5世代通信の覇権を米中のどちらが取るのかは、政治的圧力ではなく、技術の優劣で決めるべきではないだろうか。

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