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創作実話を紡ぐ人々(2)

 ソーシャルメディアなどで「創作実話」なる言葉を目にする機会が増えたが、それは文字通り実話の体裁で創作された物語だが、全くのオリジナルというものではない。多くの場合は元ネタとなる実話から物語として筋が通りにくい部分を取り除き、謎めいていたり心温まるような要素を強調することで成立している。つまり、実話が「現実の出来事」あるがゆえに内包してしまう人間のいやらしさやツラミ、複雑で理解し難い背景などを漂白し、興味深い部分のみを濃縮したのが創作実話といえ、それゆえに人々の心に浸透しやすく、ネットが身近になる以前から存在していた。

 最近の代表的な創作実話としては「艦これにハマった元軍人」があり、またネット以前から伝わる「江戸しぐさ」は、最も成功した創作実話のひとつだ。そのような創作実話のひとつに、艦これの流行をきっかけとして注目を浴びた「悲運の軍艦シャルンホルスト」がある。これは、ナチスドイツの軍艦シャルンホルストが、建造段階から様々な怪奇現象にみまわれ、やがて悲惨な最後を遂げるというもので、史実的な裏付けは全く無い、文字通りの創作実話であった。

 このエピソードは、世界各地の不可解な事件や出来事を集めて紹介する「世にも不思議な物語」という番組のフランク・エドワーズというラジオパーソナリティが著書で取り上げ、広まったとされる。ただ、フランク・エドワーズは新聞記事などを番組で紹介するという体裁をとっていたため、さらに元となる記事が存在する可能性も高いのだが、それは伝わっていない。

 ともあれ、フランク・エドワーズの著書は大きな成功を収め、超常現象の研究家として注目をあつめるようになった。また、エドワーズはジョージ・アダムスキーなどによる宇宙人や空飛ぶ円盤との遭遇体験に強く惹きつけられ、早くからラジオ番組でも取り上げていた。そのため、彼の著書は未確認飛行物体の研究家からも熱狂的に迎え入れられるのだが、エドワーズの死後に大半が「悲運の軍艦シャルンホルスト」と同様の創作実話と指摘されている。

 なぜなら、エドワーズは紹介したエピソードに「事実とは全くことなる情報」を仕込んで、それとなく「創作実話であることを示し」ていたのだ。この「悲運の軍艦シャルンホルスト」にも、恐ろしげな「進水式前夜に原因不明の事故によって船台から滑り落ち、翌朝に集まった関係者を驚かせた」なるエピソードを紹介している。ところが、シャルンホルストの進水式は盛大に報じられ、多くの記録や写真も残っている。また、エドワーズの著書は1950年代に発行されているが、その当時はまだ進水式の報道に接した人々も多く、わかる人にはわかるネタとなっていたのであろう。

 ところが、エドワーズの著書が日本で翻訳され、語り継がれる間にそのようなサインが失われ、よりもっともらしくかつおどろおどろしいエピソードが加わって、創作実話としての完成度を増しているのである。

(続く)

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