実際、京急は運転再開見通しを2日後の始発に延期し、実際に運転が再開されたのは、2日後の13時すぎだった。度重なる延期に、普通なら批判が殺到してもおかしくないのだが、実際にネットにあふれたのは、京急を称賛する地域住民の声ばかりだった。
メディアは、当初、京急の安全対策を問題視するスタンスをみせたが、これまで京急は安全対策を懸命に進めてきた。例えば、先頭にモーター車を配している。今回の事故で、車両が転覆せず、乗客に死者がでなかった原因の一つが先頭車両の重量だったとみられている。また京急は、高架化も積極的に推進していて、踏切は90カ所しか残されていない。数百の踏切を抱える私鉄が多いなかで、努力を積み重ねてきたのだ。
それでも不運が重なれば事故は起きる。問題は、そこからいかに早く復旧するかだ。実は、京急は普段から早期復旧を実現してきた。台風や地震などの災害に見舞われても、不眠不休で復旧作業を行うため、JRや他の私鉄と比べて、運航再開が早いのだ。それだけではない。京急が他の鉄道会社よりも素晴らしいのは、「行けるところまで行く」戦略を取っていることだ。例えば、暴風雨で運行が危ぶまれても、運休にせず、ギリギリの時間まで、可能な駅まで乗客を運ぶ。特急を各駅停車に変え、終着駅を変更するなど、状況に応じて柔軟に運行することで、少しでも多くの乗客を運ぼうとするのだ。
他の鉄道会社は真逆の方針を取り始めている。例えば、昨年9月にJR東日本は、台風24号に備えて、首都圏のほぼ全線で計画運休を実施した。先日の台風15号でも午後8時で運休という措置を取った。乗客の安全を守るために有効だし、事前に運休が分かっていれば、利用客も計画を立てやすいというのが運休の理由だ。専門家は、計画運休を好意的に評価している。むしろ、計画運休の発表時期を早めるべきだという意見が多い。しかし、発表時期を早めれば、本来なら電車を運行できるのに、電車が止まってしまう時間が増えてしまう。それが本当に正しいのだろうか。
昨年の台風24号の際には、私鉄各社が次々に運行を打ち切るなか、京浜急行だけは柔軟にダイヤや車両を組み替えて、運行を続けた。先日の台風15号も、最後まで運行を続けた。
今回の踏切事故に関しても、そうした京急魂を沿線住民が知っていたからこそ、不眠不休で復旧作業を続ける京急を応援する声が後を絶たなかったのだろう。
「お客様の安全を優先して運休します」と言われれば、文句は言いにくい。しかし、鉄道会社は安全と同時に、いつでも確実に乗客を運ぶ義務がある。「電車屋」としての意地を貫き通す京急は、日本社会では当たり前だった仕事への覚悟をみせてくれているのではないだろうか。