吉田輝星(17=金足農)、根尾昂(18=大阪桐蔭)など今秋のドラフト1位候補の高校球児を集めたU−18野球・日本代表は、開幕2連勝の好スタートを切った。しかし、今回は“異例の講習会”も開かれていた。
「昨年のU−18ワールドカップ大会で、清宮(19=幸太郎/現日本ハム)が標的にされてしまいましたからね。『見聞』を広めるためというよりも、日本と海外ではプレーに対する捉え方が違うことを知っておかないと」(関係者の一人)
「アンリトン・ルール」が説明されたのだ。
それも、国際大会での失敗経験を持つ明治大学OBをわざわざ講師に招いて説明されたという。
「去年の大会中、日本が大差で勝っていた場面で清宮が死球を食らいました。ハッキリ言って、相手投手が狙ってぶつけたんです。清宮は大差で勝っていても手抜きはせず、フルスイングしていました。海外では大差で勝っているチームがバントや盗塁を仕掛けると、相手を馬鹿にしたと解釈します。これ以上やったら、相手を侮辱したことになる。そういう暗黙のルールがあるんです」(前出・同)
しかも、清宮は死球で出塁した後、盗塁まで決めてみせた。スタンドは立ち上がって清宮にブーイングを浴びせ、かつ球審が「相手チームへの思いやりがない」と注意していた。
清宮は何を注意されたのか、分からずにキョトンとしていた。
スポーツに対する考え方、文化の違いだ。
日本は最後まで全力でプレーすることを教えられるが、大差で負けているチームを思いやり、トドメを刺すようなプレーは嫌われる。
講師は「大差で勝っているときにバント、盗塁はするな」「大差で勝っているとき、ピッチャーは変化球でストライクを取ってはならない」など具体的な例を出しながら、説明していたという。正規のルールブックには載っていないが、これらのスポーツマナーはアンリトン・ルールと呼ばれている。
屈辱を受けた場合、狙ってぶつける報復死球も“黙認”されている以上、高野連は球児たちに説明しておくべきと考えたのだろう。
「プロアマの懇親会で、プロ側が『国際試合に臨む前にアンリトン・ルールを説明してほしい』と強く要望したとも聞いています。将来のプロ野球界を背負う金の卵たちに怪我をされたら、一大事ですからね」(ベテラン記者)
講習を受けた球児たちは「へえ〜」と、一同に驚いた顔をみせていたという。
しかし、こうも解釈できる。日本の野球だけが特異な進化を遂げたのではないか、と。
試合前、ホームベースを挟んで「整列、礼」をする“儀式”は、高校野球が発祥である。それは、学生野球や市井の少年野球、草野球に至るまで定着している。また、最後まで全力を尽くすという教えも学生野球に端を発する。こうした歴史を否定するつもりはないが、今後、野球の国際大会が増えていく以上、「国際ルールを学ぶ機会」をもっと増やしていかなければならないだろう。
「U−18アジア選手権のネット裏はプロ野球のスカウトでいっぱいです。試合を見ているスカウトもいれば、他球団と情報交換をしているのか、何かずっと喋っているスカウトもいました」(前出・同)
9月5日17時、高野連はプロ志望届を提出した球児名をホームページ上で発表した。U−18に選ばれなかった地方の雄のなかには、すでに「出す」と明言した者もおり、スカウト陣の会話はその話題だと思われる。球児たちにアントリン・ルールを説明するのも大切だが、せっかくの国際大会がドラフト候補の品評会も兼ねているような気がしてならない。(スポーツライター・飯山満)