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ワシントンの斧は原型をとどめているのか?(2)

 アメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンについて、日本ではほとんど知られていないかもしれない。ただ、ワシントンが少年時代に桜の木を切り倒し、正直に告白して父親からほめられたというエピソード以外は。

 しかし、ワシントンと桜の木にまつわるエピソードは全くの事実無根で、没後に伝記作家が創作し、広めたというのだ。

 創作したのはワシントンの没後、ほぼ最速とも言えるタイミングで伝記を出版したメイソン・ロック・ウィームズという人物で、現在ではパーソン・ウィームズという筆名のほうが知られている。ウィームズはワシントン死去の翌年に伝記を出版というタイミングの良さに加えて、ワシントンが生まれ育ったマウント・バーノン農園にちなんだ「マウント・バーノン教区の区長牧師」という肩書をでっち上げて、さもワシントンとゆかりがあるように演出した(マウント・バーノンは地名ではなく、もちろんマウント・バーノン教区も実在しない)。

 このような人物が書いたワシントン伝ではあったが、死後のワシントンブームと相まって増刷を重ねた。そして、版を重ねる過程で1806年に新しく盛り込まれたのが、問題のワシントンと桜のエピソードである。しかし、ワシントンと桜のエピソードは独立戦争の英雄を神格化する当時のアメリカ社会に歓迎され、ウィームズの本はさらに売上を伸ばしたのであった。

 また、ウィームズが1825年に没した後も彼のワシントン伝は版を重ね、ほぼ19世紀を通じて売れ続けたばかりか、アメリカの偉人とされるエイブラハム・リンカーンも幼少期に影響を受けた本として演説で取り上げている。研究者によるとウィームズのワシントン伝は80版以上を重ねたとされ、アメリカでは聖書の次に読まれた本と形容されるほどだ。ちなみに、解説や注釈が追加された1996年の改訂新版は現在でも入手可能で、もちろん桜の木をはじめとするウィームズの創作エピソードには注釈がある。

 とはいえ、いかにウィームズの伝記がよく売れ、よく読まれたと言っても、ワシントンと桜のエピソードをアメリカ国民の大統領イメージとして刷り込んだほどの影響力があったのだろうか?

 また、ウィームズは全くの空想からワシントンと桜のエピソードを創作したのか?

 なんらかのネタは存在しなかったのか?

(続く)

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