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『信長協奏曲』『いくさの子』ヒステリックさから解放された織田信長

 石井あゆみが『ゲッサン』で連載中の漫画『信長協奏曲』が、1月23日発表の第57回小学館漫画賞少年部門を受賞した。また、北原星望原作、原哲夫画で『月刊コミックゼノン』で連載中の漫画『いくさの子〜織田三郎信長伝』第2巻が、1月20日に発売された。共に織田信長を描いた歴史漫画であるが、ヒステリックで冷酷という伝統的な信長像から解放されている。

 『信長協奏曲』は現代の高校生サブローが戦国時代にタイムスリップし、織田信長になりかわる漫画である。サブロー(信長)は飄々としていて、怒りを見せることはない。『いくさの子』は吉法師と呼ばれた少年時代から信長を描く歴史漫画である。吉法師は原哲夫が『蒼天の拳』で描いた霞拳志郎のような清々しさを有した人物になっている。
 信長は日本史上最大の革命児と称されているが、その実像は意外なほど堅実である。不利な状況から圧倒的な武力や余人では思い付かない奇策で形勢を逆転させるよりも、勝てる戦いに確実に勝利する堅実さを特徴とする。困難な状況に立ち向かうよりも、あっさりと逃げ出すことも多い。信長の後継者の信忠が信長よりも劣っていた点として、本能寺の変に際して脱出しなかったことが挙げられるほどである。
 この信長の堅実性は意図的に無視される傾向がある。困難な状況においても、ひたすら頑張ることを美徳とする精神主義が支配する日本社会のヒーロー像に似つかわしくないためである。だからこそ信長は日本史上最大の革命児になるが、ドラマとしては盛り上げにくい。革命児は熱いパッションを有していなければならないという呪縛に囚われると、情熱家とは描けないため、ヒステリックという感情を強調することになる。
 『信長協奏曲』のサブローは、お人好しが過ぎるほどでヒステリックさの対極に位置する。この性格から信長の周りには前田利家や佐々成政ら有能な家臣が集まった。羽柴秀吉・秀長兄弟が腹黒い野心家として描かれる意外性もあるが、純粋な忠義ではないものの、彼らも惹き付けている。

 『いくさの子』の吉法師は天賦の才を持った戦争の申し子として描かれる。少年を集めて武器を工夫し、一対一では敵わない海賊や山賊を打ち破る。しかし、最大の才能は人を惹き付ける魅力と作中で分析されている。信長の戦術上の最大の業績は長篠の戦いにおける三段撃ちであるが、『いくさの子』では信長の独創とはしていない。既にヨーロッパで採用されている戦術という説を採る。優れた戦術を採用する柔軟性こそが信長の強みである。
 信長は重用していた家臣に謀反を起こされて殺害された結末から、家臣の接し方に問題のあるパワハラ主君の烙印を押されている。これも一面では正しいが、信長ほど人材登用に熱心な大名もおらず、織田家に様々な才能が集まったことも事実である。

 『信長協奏曲』でも『いくさの子』でも有能な家臣が集うことが納得できる人間的魅力のある信長になっている。新鮮な信長像を提示する両作品が比叡山延暦寺焼き討ちや本能寺の変をどのように描くのか興味は尽きない。

(林田力)

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