「松井の去就は簡単には決まらないよ。1カ月以上はかかるだろう。ヤンキースとしては松井よりもデーモンらほかの選手との交渉を優先するだろうしね」。松井と親しい球界関係者はこう断言する。
「DHではなく、外野手で」という松井に対し、ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMは「マツイは指名打者。外野手としては考えていない」と明言。それを受けて、松井はヤンキー・スタジアムのロッカー整理、荷物撤去など、ヤンキースとの決別を思わせる強硬姿勢を貫いている。真っ向対立の図式だが、前出の球界関係者によれば、“裏アリ”だという。
「日本的な見方をしたらダメだ。球団と選手が互いに有利な条件で契約しようとする、メジャーでは当たり前の駆け引きだ。松井に対しては代理人のテレム氏がいろいろ知恵をつけているのだろう。松井自身、ヤンキースと再契約できるのがベストと考えているのは間違いない。ただ屈辱的な条件なら他球団へ行くだろう」
実際に、イチローのいるマリナーズがいち早く松井獲得に名乗りを上げ、ホワイトソックス、同じニューヨークを本拠地にするメッツ、さらにはヤンキースの最大のライバルであるレッドソックス、そして、ここにきてエンゼルスも松井争奪戦に参戦している。ワールドシリーズMVPの威光で松井には、ヤンキース以外にいくらでも選択肢がある。それにしても、なぜヤンキースの松井に対する評価が低いのか、疑問が残る。
「ヤンキースのキャッシュマンGMには、井川で失敗したトラウマがあり、日本人に対し、差別的な意識がある」。メジャー通の球界関係者がその楽屋裏を明かす。
3年前の06年のオフ、阪神からポスティングでヤンキース入りした井川慶は「AAAA(4A)クラスの選手」と呼ばれている。「マイナー(AAA=3A)以上、メジャー以下」という意味だ。約30億円の落札金を支払い、5年間、総額2000万ドルプラス出来高という契約をしている。それなのに、07、08年の2年間でわずか2勝。トレードに出そうにも年俸が高いために、他球団が食指を動かさず、マイナーで飼い殺し状態になっている。
井川ショックで松井に対しても冷たい視線を送るキャッシュマンGMがいる限り、今季年俸約13億円よりもいい条件提示は考えられないだろう。
しかも、1年契約、DHでは話にならない。「7年かかったが、ヤンキースでワールドチャンピオン、しかも自らMVPになったのだから、もうヤンキースは卒業すればいい。最大のライバルであるレッドソックスへ行き、キャッシュマンを見返してやればいい」。松井周辺から起きている声は、正解かもしれない。
日本球界のエースだった松坂大輔との新しいMMコンビも、日本のファンには最大のインパクトがある。さらに巨大な壁、グリーンモンスターを背にして左翼を守るゴジラ松井の姿はサマになるだろう。