元木といえば、そのタイソン似の強面ぶりと相手の骨が軋むほどのタックル、徹底したラグビー最優先主義で、誰もが強靭な心身を持つ“鉄人”を疑うことはなかった。しかし、そんな元木が平成12年、突然“パニック障害”に襲われたのである。心臓が破裂しそうにバクバクと鼓動を打ち鳴らし、後頭部をわしづかみにされるような激しい頭痛が襲い、息苦しく目の前が真っ白になり、あまりの痛みと苦しさに死の恐怖に襲われる…。
そんな状況にさすがの鉄人も死を覚悟しなければならない苦しさにおびえたという。当時を知る知人は「アノ頃の元木さんはまともに食事も摂れず、2か月で体重が7キロ近くも減ったんです。激しい発作は10分くらいなので、救急車で病院に行っても着くころには発作は終わっていて診断がつかず、それが症状を悪化させました。でも、信頼できる精神科医に出会い、それがパニック障害だと分かり、適切な治療をしてもらってからは次第に発作の間隔も開き、二年後にはほぼ症状がなくなりました」と話す。
元木はこのパニック障害について著書でも告白しているが、突然襲われたこの地獄のような苦しみを克服することで得たものも多々あったという。病を機に一番変わったことはリラックスする時間をつくれるようになったことだという。パニック障害を経験するまでの元木は飲み会などを徹底的に嫌い、時間さえあればトレーニングという常に張り詰めたプロ意識に覆われていた。その元木の真面目過ぎる日常がパニック障害のきっかけとも考えられ、以後は自分から率先して練習後の一杯などの声掛けをするようになった。家族や先輩、チームメイトら周囲への感謝も忘れない。
まったく抜け目のなかった“ミスターラグビー”が、病気をきっかけに人間味も備え、別の意味で名実共に“ミスターパーフェクト”になった。病気克服後も平成15年、トップリーグの初代MVPに輝いたこともその証明のひとつだ。病前より心身のバランスを良くした元木、ラグビー界でやることはまだまだ残されているようだ。