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岩隈の米挑戦で『入札制度』見直しへ…

 11月6日午前7時半、NPBから楽天の米田純・球団代表に電話が入った。岩隈久志投手(29)の入札に関する連絡である。
 「1球団以上の入札が…」
 おかしな表現である。入札制度について、それに参加してきた球団名と金額を明かさないルールになっているとはいえ、これでは複数球団が入札してきたのか否かさえもはっきりしない。

 岩隈のポスティングに参画してきたメジャー球団は「1チーム」で間違いないだろう。各メディアによる「米不況の影響で高額な落札金が期待できない」との予想も、的中したようである。しかし、岩隈争奪戦が盛り上がらなかったのは、不況のせいばかりではなかった。
 「岩隈のポスティング? こちらではさほど話題になりませんでした。時期が悪すぎましたね」
 米メディア陣の1人が現地の様子をそう語っていた。彼の言う「こちら」とはアメリカの野球ファンではなく、メジャー30球団の編成担当者や野球記者たちのことを指している。第2回WBCで好投した岩隈の実力は認められていたが、話題にならなかった理由について、こう説明し直してくれた。
 「岩隈がポスティングに掛けられたのは、11月1日(日本時間)。ワールドシリーズの真っ只中でした。FA補強、トレードが本格化する12月のウインターミーティング前ですし、各チームのGM、編成は『慌てる必要はない』と、一歩引いた見方をしていました」
 そもそも、楽天は岩隈のメジャー流出は覚悟の上だった。海外FA権を取得する来年オフ、その権利を行使された場合、現行ルールでは楽天球団に『補填金』は入って来ない。「タダでエースを失うくらいなら」と思ったのか、楽天はポスティングシステムを使って、落札金を得ることを選択したのである。

 当然、楽天も「10〜15億円」と落札金も予想していたが、ポスティングに掛ける時期については、意見が分かれたようである。前出の米メディア陣が指摘したように「ワールドシリーズ期間中、ウインターミーティング前だから、関心が高まらなかった」との見方もある。楽天側にもその懸念はあったが、今回は「あえて11月初旬に(ポスティングを)告知すべき」と判断したようだ。
 「今オフの米FA市場は好投手が多くないので、投手補強を検討している球団に、『11月の今なら、確実に計算の立つ岩隈が獲れますよ』というアピールもあったんです」(球界関係者)
 一般論として、メジャー球団は「今オフはこれだけ」と補強予算額を決めている。選手側の代理人も球団の予算を分かっているので、駆け引きを重ねながら「少しでも多く」と年俸を釣り上げて行く。岩隈に興味を持ったメジャー球団は少なくなかったが、メジャーのFA投手との交渉が始まってしまえば、ポスティングへの参加を見送る球団も出たかもしれない。楽天側はウインターミーティングに“フライングすること”で、入札球団が増え、「岩隈を少しでも高く売れる」と判断したのだ。
 「ウインターミーティングの開催中、あるいはその後だったら、補強に失敗した球団がラストチャンスと捉え、岩隈を必死になって獲りに行ったと思う」(前出・米メディア陣)
 どちらが「より高い落札金を得られたか」は、やってみなければ分からない。しかし、予想していた以上に、メジャー球団の財布の紐は固かったようだ。

 日本のライバル球団職員がこう言う。
 「西武は中島(裕之)内野手をポスティングにかけるのを辞めました。西武は6億円強の落札金を予想していました。しかし、6億円と中島を手放した後の戦況を秤に掛け、残留を選んだわけです。楽天は『海外FA権』を行使され、見返りがゼロになるくらいなら、ポスティングに掛けて、少額でも落札金を得たいと判断しました。日本の球団も経営状況が厳しいですし、『海外FA権』を取得する直前で、対象選手をポスティングで売るスタイルが主流になるかもしれませんね」
 米球界も自由交渉のできない日本のポスティングシステムに批判的だ。
 楽天は多少買いたたかれたとしても、堅実に落札金を得る方法を選んだ。海外FA権を取得する前年に岩隈を手放した今回の球団経営に、他の日本球団が追随したら、どうなるのか? 岩隈の挑戦はポスティングシステムを見直す契機にもなりそうだ。

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