山本昌、川上憲伸、山崎武司といった中日のレジェンドたちがそろって阪神・宜野座キャンプを訪問したのは、2月5日だった。山本、川上の両氏は若手投手に変化球も伝授。山崎も若手の打撃練習に見入り、取材陣にコメントもしていた。
阪神OBがキャンプ訪問し、選手を指導し、トラ番記者にリップサービスするのであればよくある話だ。とはいえ、彼らは中日OBである。矢野燿大監督(49)が中日でプロ野球生活をスタートさせ、当時のメンバーと今も交流があるとはいえ、他球団のキャンプ地で精力的な動きを見せれば、“ありがた迷惑”になるのは分かっているはずだ。
「阪神は伝統球団なのでOB組織の結束も強い。阪神フロントは選手にアドバイスまでしてくれた山本たちに感謝していると話していましたが」(在阪記者)
山本たちは良識を持ったプロ野球OBである。その彼らと矢野監督が談笑するシーンも見られた。また、矢野監督も、ファンやメディアの前で”敵チームのOB”で談笑しても大丈夫と思ったのだろう。
金本知憲氏に続いての外様指揮官ということで、矢野監督の周囲には「ウルサ型の阪神OBには気をつけろ」の声も出ていた。就任当初から騒がれていたことだが、今回の中日OBの訪問が和やかな雰囲気のまま終了したのにはワケがあった。
「矢野監督が鳥谷(敬=37)を大事にしているからですよ」(球界関係者)
ベテラン・鳥谷は今季からショートに再コンバートされる。鳥谷自らが申し出たもので、”運動量の多い”ショートに戻すことに批判的な声も多かったが、矢野監督はその願いを受け入れた。矢野監督に近い関係者によれば、「鳥谷のヤル気にさせ、元気なころに戻ってもらうほうがチーム全体への相乗効果も見込める」と判断したからだという。
「鳥谷は長期にわたってチームを牽引してきました。若手だけではなく、チーム全体に与える影響力も大きい。金本前監督にスタメンを外された後も、淡々とした表情で球場に一番乗りし、寡黙に練習していました」(前出・在阪記者)
その鳥谷にも割り切れないところがあったのだろう。ベンチスタートとなり、試合中に暗い表情を見せることもあった。それが昨季の最下位低迷の一因とする声と同時に、鳥谷の蘇生法がチーム再建のカギを握るとも言われていた。
「守備面での負担が大きいショートに再挑戦するということは、北條をはじめとする若手内野手にレギュラー争いで負ける可能性も高い。鳥谷自身、不本意なコンバートを受け入れるよりは勝負して負けたほうがマシと思ったのでしょう。本人は勝つつもりで頑張っていますが」(前出・同)
鳥谷は阪神OBのウケもいい。外様の矢野監督が今のところ、ウルサ型のOBたちから敵視されていないのは、このへんに理由がありそうだ。
「いや、矢野監督は現役時代、鳥谷と一緒にプレーしていました。鳥谷の影響力の大きさを知っています。OBウンヌンではなく、本心から鳥谷をなんとかしてやりたいと思ったのでしょう」(前出・同)
中日OBたちの表敬訪問がまた見られそうだ。先の球界関係者がこう続ける。
「中日は生え抜きの与田剛監督を指揮官に迎えましたが、現役生活の後半は他球団で過ごしています。落合博満氏が中日幹部に相談され、『与田氏の招聘に反対しなかった』との情報もある。中日OBが今のチームに近づきたくても近づけないなんて話もありますが」
その通りだとすれば、中日のお家騒動のほうが深刻だと思うが…。どの球団もOBとのお付き合いは大変そうだ。(一部敬称略)(スポーツライター・飯山満)