撮影している試合の勝利チームと、次に対戦する高校の父母会が撮影していたのだ。以前はベンチ入りできなかった部員が中心となって対戦校のデータ集めを行っていた。しかし、近年では「部員による撮影禁止」の場内アナウンスもされている。ビデオ撮影に関する規則はない。おそらく、都道府県の高野連は各校のデータ解析が度を越していると判断し、自粛を促したのだろう。野球部員が撮影できないため、父母会が代わりを務めていたようだ。高校野球にデータ収集と解析は必要だろうか−−。
今春、21世紀枠でセンバツ大会に出場した松山東(愛媛)は愛媛県下ではもっとも硬式野球部の歴史が古く、昭和25年、夏の甲子園大会(第32回大会)で優勝も勝ち取った伝統校である(商業科を併設したため、出場、優勝回数の記録は松山商と共有)。現在は、国公立大学に現役合格者を毎年何人も出す進学校としても有名だが、センバツ主催者の毎日新聞は「82年ぶり2回目の出場」と、大会史上最長のブランクであることも伝えていた。
その進学校が大会初戦で、東東京の強豪、二松学舎大付校に勝利した。インテリ集団の松山東ナインがどんな野球をやったのか、それは『データ解析』だった。対戦相手のスコアや学校の新聞記事などを集め、それを控え選手4人が中心となって徹底解析したという。相手投手の投球、球種によるフォームの違いを映像と重ね合わせ、レギュラー選手がひと目で分かるレポートを作り上げたそうだ。
<データ班は(3月)26日夜から27日午前3時半ごろまで、大阪府吹田市内の宿舎にこもり、東海大四を分析。一回戦の映像を繰り返し再生して投手の配球や打者の特徴などを探した。データ班の野尻匠君(2年)は「次戦まで時間がなく深夜まで続いた。東高生は集中力があるのが長所。良い作業ができたと胸を張った>(2015年3月28日/産経ニュース)
その3月26日とは、松山東ナインが二松学舎大付校に勝った翌日。大会中であり、どの学校が勝ちあがってくるのか分からず、こうした徹夜作業になることは覚悟していたとは思うが、その初戦の相手だった二松学舎大付校、2回戦の東海大四(北海道)の過去の新聞記事は、愛媛県ではなかなか入手できない。それを全国各地に散った卒業生たちが協力して集めたとも伝えられている。
全国の精鋭を集め、ハイレベルなチームを作るだけが高校野球の姿ではない。こういうデータ解析で戦う学校もあるのだ。
卒業生が協力するという点で、こんな話も聞けた。
「センバツ出場を控えた北海道、東北、北信越などの高校は冬場の練習施設を確保するのに苦労させられています。室内練習を持つ強豪校はともかく、初出場、それも野球以外も評価対象となる21世紀枠で選ばれた学校は、とくに苦労しています。その際、郷里を離れ、都内の大手企業に務める卒業生が社会人チームのグラウンドを代わりに確保するなどして、サポートしています」(東北圏の私立高校指導者)
高校野球で地元、郷里を離れた卒業生もひとつになれる。
100年目の夏、出身地の代表校の勝敗が気になる。縁もゆかりもない高校でもその奮闘に心が打たれる高校野球ファンも少なくないはずだ。出場選手がバッターボックスに入るとき、テレビ画面で出身中学などの簡単なプロフィールを紹介される。「なんだ、他県から来た球児なのか」と冷めてしまうファンもいれば、郷里を離れてから今に至る自身のことを重ね、「頑張れよ」と思うファンもいる。高校野球はグラウンド外でもさまざまな影響を持つようだ。
(了/スポーツライター・美山和也)