「記録員」という、貴重な人数枠を別の目的で使いたいと思っていた現場指導者も少なくなかったのだ。
故障で選手生活を全う出来なかった部員、人望もあり、後輩の面倒見も良い三年生、レギュラー争いに敗れたが、誰もが一目を置く努力家…。そんな部員を記録員としてベンチに入れてやり、甲子園を体感させてやりたい。女子マネージャーのベンチ入りが審議されたとき、そんな反対意見を言う出席者も少なくなかったそうだ。
有名・強豪校に限らず、野球部の女子マネージャーは「働き者」だ。試合中はスコアブックを付け、過去の記録を整理するなど監督の補佐も務めている。また、野球用品の手入れ、ユニフォームの洗濯、部室やグラウンドの清掃、合宿での食事など野球部員の世話もする。「スコアブックをつけられるようになれば、ベンチに入ることができる」との希望が、全国の女子マネージャーに浸透し、彼女たちが“雑用係以上のこと”をやるようになったという。言い換えれば、女子マネージャーの甲子園でのベンチ入りが認められたことがきっかけとなったようだ。
平成26年センバツ大会に出場した32校のうち、女子マネージャーがいたのは、ちょうど半分の16校だった。
女子マネージャーを置かない理由はさまざまである。監督の方針、スポーツ部と一般クラスの授業カリキュラムの違い、遠征などでプライバシーに配慮しきれない現実的な問題によるものだという。
ひと昔前、補欠部員が監督室に呼ばれ、「明日からマネージャーになれ」と非情宣告される光景も見られた。宣告を受けた部員は精神的にモヤモヤした思いがあっても、それを隠して仲間のために尽くしていた。一方で、宣告を受け入れられず、退部を選択した部員もいた。こうした残酷な通達を受けた部員たちが報われる場所として残されていたのが、「記録員」の枠だった。
しかし、時代の変化とともに「野球がダメだったら、別の可能性、選択を探したい」とする考え方も浸透してきた。どちらが良いという話ではないが、最初から女子マネージャーがいれば、残酷な通告もしないで済む。現在の高校野球は勝利至上主義ではない。高校野球を通じて何を学ぶかが最大のテーマとされている。女子マネージャーが認められたのは、こうした時代の変化に応じての結果だろう。
(スポーツライター・美山和也)