野村監督が開幕投手に関するコメントを出すたびに、田中マー君は浮かない顔をする。
オープン戦で田中が好投すると、「いいねえ。(開幕投手の)候補だよ。力からいっても当然じゃないのかねえ」
逆に岩隈が打たれると、「どうしようもないねえ。あれじゃあ(開幕投手は)どうかなあ。しっかりしてくれよ、ほんとに」
監督がこんな調子だから、マスコミは「楽天の開幕投手は田中」ととらえる。だから田中への質問も開幕試合のことばかり。
「(開幕戦に)投げることができればですか?それはいいですけどね…」。そう受け答えする田中の表情は決してすっきりしていない。何か困った様子なのである。
担当記者によると「普通なら大喜びしてもいいはず。岩隈に対して遠慮している感じなんですよね」
開幕投手は特別な名誉とされる。投手にとって一度は経験したい先発である。先発を指名する監督もじっくり考えて本人に通告する。
「開幕投手はそのシーズンのエースとなる投手を使うのが普通です。相手チームの相性を考えてエースを使わないと、エースはふて腐れてしまいますよ。勝敗よりも名誉がかかっていますから。目先の1勝にこだわったら後が大変」とは監督経験のある評論家。
野村監督は計画性があることで知られる。
「おそらく開幕投手はキャンプのときに伝えてあるはずだ。その投手は開幕を目指して調整する。だからオープン戦で打たれても大した問題ではない」とベテラン記者。
では、通告されているのはだれなのか。「そりゃ、岩隈でしょ」と評論家は言う。
それでは田中はどうなるのか。
「そこが野村監督のしたたかさ。田中の名前を出して岩隈をあおっているんですよ。それとマスコミ受けを狙っている。そう、田中はうまく利用されているんです」(担当記者)
田中は岩隈の存在を気にしている。
「プロでの実績が違う。田中は岩隈とまともに口もきけないのではないか。だから野村に開幕投手は田中とほのめかされるたびに、岩隈の顔が浮かぶのではないか」(評論家)
田中はまだ2年目。純情そのものである。監督の言葉にいちいち反応するあたり、まだかわいいものである。