大井町周辺は、驚くほどの変貌を遂げた。やむを得ない再開発に着手するいっぽうで、時代がかった昭和の居酒屋ブロックを取り壊さずに置いたことは、敬服に値いする。あまりに対照的なその風景は、行政の意識的な措置であることは明白。品川の一つ目小町だったことも幸いしたのだろうが、東小路飲食店街を残した品川区はえらい。
守られた昭和の時代と、昭和のおばさんたち。「酒場大山」のご亭主大山善三さんのもと、昭和ガールズは元気そのもので働いている。ガールズは、それぞれ柄のちがうマグカップを持ち、各自いそいそと緑茶を淹(い)れながらトークに忙しい。トークしながらひとり客には声をかけ、待ち合わせ客には隣にコップを伏せて置くべしとアドバイスし、3人客には卓を勧め、団体客には2階をご案内。その的確な指示に従って、まずはうなぎの寝床のような1階が埋め尽くされた。
磨(す)り減った座面がお尻に優しいカウンター席。大型テレビにはお決まりの大相撲中継。六合五勺(しゃく)入りの徳利から、縁のぶ厚いガラスに注がれる熱燗をすすり、受け皿にこぼされた酒を戻して煮込み豆腐を箸で崩していると、酒の前に幸せに酔う。
ハムエッグスと、複数形だから卵は2個。ネーミングと、その優しく丁寧なお仕事(1個づつ皿に割りいれ、時間差を作ることで焼き加減を変える)がこの店の身上。男性客中心なのも渋い。
予算1600円
東京都品川区東大井5-2-13