2019年9月1日、二酸化炭素(CO2)の排出量に応じて税を課す「炭素税」の導入検討に関する報道が流れた。炭素税とは、企業に二酸化炭素を排出“させない”ための税金である。実態はともかく、表向きは、「世界的に温暖化対策に消極的な企業から投資を引き揚げる動きが強まっている」ということで、環境省が導入を求めているのだ。
炭素税は、企業にCO2を排出させないための、政策的な税制。それでは、消費税は?
もちろん、国民に消費をさせないための税制であり、それ以外の政策的な意味はない。安倍政権は、日本国民に「消費を減らす」ことを要求しているのだ。デフレという需要(消費+投資)が不足している国において、消費という需要の削減を求める。狂気の沙汰だ。
何しろ、消費に対する罰金である消費税の増税は、本当に見事なまでに国民の実質消費を減らしてしまう。
図は、持ち家の帰属家賃を除いた家計最終消費支出の実質値を見たものだ。なぜ「持ち家の帰属家賃」を除くのかと言えば、同家賃とは、実際には家賃を支払っていない住宅(持ち家など)について、通常の借家や借間と同様のサービスが生産され、消費されるものとみなし、市場価格で評価した計算上の家賃を意味するためだ。つまりは「架空家賃」であるため、消費支出の実態を見る際には除かなければならない。
また、消費支出を名目で見ると、消費税増税による強制的な価格引き上げ分が含まれてしまうため、実質値で見る必要がある。消費支出の実質値とは、要するに「消費の量」を意味するデータだ。
図の通り、2014年度の家計最終消費支出(実質値)は235.2兆円。2013年度の243.2兆円と比較すると、マイナス8兆円。消費の「量」が、金額換算で8兆円分、消滅したのである。
日本の家計最終消費支出は、2014年4月の消費税増税で8兆円も落ち込み、2018年度に至っても、2013年度の水準を回復していない。まさしく、「L字型」の低迷になってしまった。
2019年10月に消費税率が10%に引き上げられると、さらに一段下がった「L字型」低迷に陥るのは確実である。消費量が減るとは、生産量の減少とイコールになる。そして、GDP三面等価の原則により「生産=所得」だ。実質的な生産量の縮小とは、これは国民の実質賃金低下と同じ話になるのである。
実際、2014年度の上半期、実質賃金は対前年比▲2.8%、下半期は同▲2.6%と、壮絶な下落になってしまった。ちなみに、リーマンショックが起きた2008年の実質賃金は同▲1.5%、2009年が同▲2.5%であった。
消費税増税は、“あの”リーマンショック以上に、実質賃金を引き下げる。
それにも関わらず、安倍政権は2014年に引き続き、2019年に更なる消費税増税を断行しようとしているわけだ。間違いなく、安倍晋三内閣総理大臣は、日本の憲政史上、「最も国民を貧困化させた総理大臣」である。
しかも、過去の例を見る限り、日本の場合は消費税増税と法人税減税がセットになっている。法人税率の引き下げは、企業の純利益を増やし、株主への配当金や自社株買いを増やすために行われる。
表向きは、「法人税減税で企業に余裕が生じれば、投資や賃金が増える」という、トリクルダウンの理屈が唱えられているが、現実には単なる株主への所得移転にすぎない。
そもそも、本気で企業に減価償却(投資)や人件費といった費用を増やさせたいならば、「利益を膨らますことへの罰金」である法人税は、むしろ増税するべきなのだ。日本の民間非金融法人企業の現預金で見た内部留保額は、2019年3月末時点で273兆円(!)。第二次安倍政権が発足した2012年12月末と比較し、何と80兆円の増加。
安倍政権は消費税を増税し、法人税を減税。かつ、様々な労働規制の緩和で費用の削減を推奨し、純利益を最大化。株主への配当金、自社株買いが増加し、余った分が企業の現預金として積み上がっているわけだ。
現在の日本では、資本主義が成立していないも同然である。資本主義とは、企業が負債(銀行融資)を増やし、投資を拡大することで成長する経済モデルなのだ。企業がひたすら現預金を積み上げていく資本主義などあり得ない。
もっとも、だからといって「企業の内部留保に税金を掛けるべき」というのは、これは私有財産権の否定であり、看過できない。やるならば、普通に法人税を増税すればいいのである。
法人税を引き上げ、過剰な利益に対する罰金を増やし、逆に消費税という消費に対する罰金は廃止。消費に対する罰金がなくなれば、民間最終消費支出という需要が増える。
法人税を増税すれば、利益に対する罰金が増えるため、企業は費用を増やす。人件費を、減価償却費(投資)を、交際費を増やす。結果、需要が増える。
デフレ脱却を真に望むならば、日本には「消費税廃止+法人税増税」以外の選択はないのだ。
ちなみに、法人税増税と聞くと、すぐに、
「そんなことをしたら、企業が外国に逃げていく」
などと反論する「知ったかさん」が出てくるが、トランプ政権発足前のアメリカは、法人税率35%で、OECD加盟国の中で最も高かった。とはいえ、「法人税が高いから、アメリカから出ていった企業」など、1社もない。
政治的に法人税増税が難しいというならば、とにもかくにも「消費に対する罰金」である消費税の廃止を目指さなければならない。
ちなみに、今回の消費増税は「対策」の方も、格差拡大型の政策のオンパレードなのだが、本件については次回、取り上げる。
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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。