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映画『恋するナポリタン 〜世界で一番おいしい愛され方〜』に出演した茂木健一郎氏に山口敏太郎が聞く、恋と脳と記憶の不思議な話(2)

 茂木 というようなことも考えられますね。そもそも愛っていうもの自体、現実が変容しているわけでしょう?

 山口 そうですね、かなり、わん曲していますね(笑)。

 茂木 だから、現実って一つじゃないんですよね。むしろ感情が現実を作るって言えばいいのかな。脳の働きでもよく知られているんですよ。妄想なんかも、客観的な事実はあるんだけれども、自分がある感情を持っていて、その結果現実を歪めてしまっている。でも、本人はそれに気付かない。

 山口 それは、オカルト現象でもありますよね。

 茂木 お得意の(笑)。オカルトっていわれている現象は、実は人間の真実を表しているわけで、例えば、そうだなあ…えっと困ったな、不適切な事例しか思い浮かばない(笑)。

 山口 割と心に闇がある人が幽霊を見やすい、とかですか?

 茂木 逆に言うと、それだけ(オカルト現象は)クリエイティブだってことですよ。100年とか200年、バレないような嘘をつくっていうのは、物凄く創造的なことだから。だから映画も、100年200年バレない様な嘘をつける映画がよい映画だっていうことですよね。

 山口 だから、この作品にはうまく騙されましたよ(笑)。映画の随所においしい料理が出てきて、観ていて食べたいなって思ったんですね。それでいい音楽が流れてきて気持ちよくなって、おいしい料理、気持ちいい音楽とストーリーが絡み合って、まさにナポリタンのように絡み合って(笑)。

 茂木 おっ!(笑)。

 山口 ウマいこと言ってしまいました(笑)。グルメも音楽も、わざと演出で入れていて、心地よい記憶とともに映画のストーリーを記憶させる。多分、何年か経って思い出した時に「『恋するナポリタン』、ああ、あれいい映画だったね」っていう風に言わせるために、おいしい記憶、気持ちいい音楽の記憶が、映画と同じようにハーモニーを奏でてる。ここらへんの演出については、先生はどう思われますか?

 茂木 おいしさって、すべての人間の幸せの原点なんですよ。だって「衣食住」っていうけど、その中で「これがないと命が繋げない」っていうのは「食」だから。しかも食って、脳にとっても単に栄養素を摂るということ以上に意味があって。おいしさって、2種類あるってことですよ。

 山口 どういう意味でしょうか?  

 茂木 体にいい栄養が行くっていう意味においては、タンパク質とか脂肪だとかビタミンだとか、いろんなものが入っていなくちゃならないんだけど、“味わい”っていうのはね、脳の神経細胞がそれで活動して喜びを感じて、脳内でドーパミンっていうのが出て、脳が生きる力を得るわけですよ。それって栄養素とは別の話なんです。脳に与えられる喜びなんですよ。その脳に与えられる喜びっていうのは、食事を誰と食べるとか、誰が作ってくれたか、どういう思いで作ってくれたかっていうことも含めて、おいしさっていうのは脳の中で生まれるんです。

 山口 なるほど。

 茂木 やっぱりおっしゃったようにね、素敵な音楽とおいしい食事と、仲間とか恋人とか、そういうものの存在がトータルでおいしい味わいになっているわけです。だから『恋するナポリタン』っていうのは、究極のおいしさのテーマなんでしょうね。だってナポリタンって、普通のスパゲッティですよ。それが恋していて愛していて、大事な人が作ってくれると、最高の天国の味になるんでしょう。

 山口 そうですよね。だから主人公が「ナポリタンは無理!」って言った背景には、お母さんを亡くした悲しみがあって、「ナポリタン=お母さんの味」だというイメージがありますから、お母さんの思い出そのものだから作れない、無理だって言っていても、でも大好きな幼なじみのために、人生最良の日に作ってあげたいっていうのは、やっぱり彼女に対する思いやりであったのかもしれませんね。

 茂木 そうですね。

 山口 料理とメモリーっていうのは連動してるんだなあ、っていうのが僕の勝手な話なんですが、先生のお話で脳に栄養が行くから、おいしい料理を食べてた時の記憶は鮮明だし、なぜ恋人同士がホラー映画を見に行ったり、おいしい料理を食べに行ったりするのか、やっと理解できました。恐怖とかグルメとか感動という脳の体験は、恋愛感情と非常に密接にリンクしているのかなあ、という気がしたんです。

 茂木 そうですよ。だって守ってほしい訳だからね、女の子からすると。「つり橋効果」っていうのがあって、つり橋渡って出てくると、そこで会った人を好きだと思っちゃう。自分がドキドキしてつり橋を渡って、そのドキドキが相手を見る目に移ってしまう。恋をするって、生きることの不安とか、そういうことと絶対関係してくるんですよ。自分一人でもう全部充足しちゃってる人なんて恋をしないんですよ。自分が一人で生きる上で、いろいろ不安とか怖いこととかがあるから、他人を必要とするんで。

 山口 あと、今回記憶が他人に移るということだったんですけど、こういうことって可能性的にはあるんでしょうか? 例えば今、人工海馬とかいろいろ言われてますが、ああいうものが普通にチップとして埋め込まれてる未来があったとしたらですね、他人の記憶を垣間見るってことができるんでしょうか?」

 茂木 うーん、原理的には可能かもしれないですが、当分無理だと思いますね。

 山口 数百年先の話でしょうか?

 茂木 そうですね。ただ人間、無理なことでもそれを想像することでね、脳で作るから。透明人間なんかもそうでしょ? タイムマシンもそうだよね。タイムマシンだって、一般相対性理論でいうと、一応可能ってことになってる。だけどそれを現実に構築するっていうことを行うのは無理だから。

 山口 そうですね、予算的にちょっと無理ですね。でも、人間の脳って本当に不思議だなあって思いますよ。子供の頃に体験した記憶でも、じつは模造記憶である場合があって、親から「こういうことがあった」って言われて、思い込んだ記憶とかありますよね。

 茂木 よくあります。逆に言うと、人の記憶っていうのは、正確に覚えていることが一番大事なことじゃなくて、生きる上で役に立つっていうことが大事なんですよ。だから、いろいろ妄想してしまったり、偽の記憶を作ってしまうことが、正確な記憶を覚えてることよりもむしろ、その人が生きる上で役に立つことだったら、やっちゃっていいんです。極端な話ですが。

 山口 自分の記憶に、実用的にちょっと手を加えてデータとして残しておくのは構わない、ということですか?

 茂木 自分を支えてくれているのだったら、いいと思いますよ。

 山口 なるほど。それだと人間の存在とか歴史的事実っていうのは結局、皆が客観的に持っている保存記憶の集合体でしかない。ということは歴史って、人の思い込みとか、思い込みの強い人の妄想で変わっちゃったりするわけですか?
(その3に続く)

映画『恋するナポリタン 〜世界で一番おいしい愛され方〜』
9月11日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー

<ストーリー>
「プロポーズの返事をしないといけない!」
 幼なじみでグルメライターの佐藤瑠璃(相武紗季)から入っていた留守電のメッセージ。驚いたイタリアンシェフ田中武(塚本高史)は、彼女の元へ駆けつけるが、瑠璃の傍には先輩シェフの水沢譲治がいた。
 武が瑠璃に想いを伝えようとしたその時、ピアニスト槇原佑樹(眞木大輔)が起こしたアクシデントに巻き込まれてしまう。
 奇跡的に一命を取り留めた佑樹には、なぜか武の記憶が宿っていた。
 あの日、武が瑠璃に伝えたかった想いとは?

〔STAFF & CAST〕
企画/プロデューサー:野間清恵
監督:村谷嘉則
出演:相武紗季 眞木大輔 塚本高史/市川知宏 岡山智樹/茂木健一郎/真琴つばさ 市川亀治郎/北大路欣也
(C)2010「恋も仕事も腹八分目」フィルムパートナーズ

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