売りの洗礼を浴びる理由は明白だ。同社は昨年秋、当初は300億円の黒字を予想していた今年3月期の業績見通しを4200億円の赤字に下方修正した。最終赤字に転落するのは2期ぶりのことだが、赤字額は2002年3月期(4310億円)に次ぐ史上2番目のワースト記録となる。
それどころか、市場には「過去最悪の記録更新が避けられない」との観測さえ燻る。欧州経済の先行き不透明感に加えて、タイの洪水被害や三洋電機の暖簾代滅損などの追加損失で赤字幅が拡大する公算が強く、2月3日に予定されている第3四半期の決算発表の際、今期の最終赤字見通しを「大幅に下方修正するのではないか」(経済アナリスト)との悲観論さえ台頭しているのだ。
何がパナソニックを空前の赤字地獄に追い込んだのか−−。
最大の原因はテレビ事業が韓国のサムスン電子などとの価格競争に敗れたことだ。薄型テレビ各社が価格下落に苦しむ中、同社は市場の変化に逆行してテレビ拡大路線を突き進んだが、それが裏目に出て傷口を広げたといえば話は早い。テレビ事業8期連続赤字の醜態を続けるソニーには及ばないものの、パナソニックの薄型テレビ事業も昨年3月期まで3期連続の営業赤字で、この3月期も大赤字計上が避けられない。
同社は、2100億円を投じて'10年1月に稼動したばかりの最新鋭設備を誇る尼崎第3工場でのプラズマテレビ用パネルの生産を今年度で停止、液晶テレビ用パネルを生産していた千葉県茂原市の工場は“液晶・日の丸連合”のジャパンディスプレーに売却した。結果、プラズマパネルを尼崎第2工場、液晶パネルを姫路工場と、それぞれ一つの拠点に集約することで外部調達比率を高め、完成品までの一貫生産を実質的に放棄したのである。
「パナソニックにとってプラズマテレビ事業は、中村邦夫会長、大坪文雄社長コンビが陣頭指揮を執って牽引した一種の聖域事業です。だからトップに配慮して対応が遅れ、やっと構造改革と称して本格的にメスを入れ、巨額の減損処理を強いられること自体、会社が崖っ淵に追い込まれた何よりの証拠。株価の不吉なつるべ落としは、市場が突きつけたレッドカードでしょう」(大手証券マン)
中村会長-大坪社長コンビは、プラズマテレビ事業に総額5350億円にも及ぶ大金を注ぎ込んだ揚句、同事業の構造改革費用として2650億円を見込んでいる。要するに投資マネーの半分をドブに捨てざるを得ないということ。それだけではない。パナソニックは約8000億円を投じて三洋電機を買収したが、同社との重複事業解消に伴うリストラ費用などをカウントすると、今年3月期の構造改革費用は締めて5140億円に跳ね上がる。