「実はオレ最近つけまわされてるんです。正体は誰だかわからないんですが、背後に何か感じて…」
IWGP王者は異変を感じていた。棚橋といえば、そのナルシシストな一面からリング上でブーイングを浴びたり、時にその有り余るフェロモンから女性に嫉妬(しっと)されてしまったり、スキャンダラスな一面を持つチャンピオン。そんな危険な香り満載の“ジャックナイフ”棚橋も、今回ばかりは何かに怯(おび)えていた。
確かにこの日はツイていなかった。タイトルマッチではライバル団体ノアの杉浦から、25分を超える激闘の末に3カウントを奪って初防衛に成功するも、試合後はハッスルへの勧誘をもくろむTAJIRIから毒霧で奇襲されて悶絶。ヤングライオンに担がれて医務室に直行する失態をさらしてしまった。
そのクビを狙われるのは今に始まったことではない。先シリーズ最終戦6・20大阪大会ではノア杉浦から挑戦表明され、今シリーズ開幕戦ではZERO1田中将斗に襲撃されてしまう始末。例え棚橋が「つけまわされてる」と感じたのが幻想であったにせよ、うす気味悪い。
そんな状況からフェロモンボディーが“亡霊被害”を訴えるのもやむなしといったところだが、果たしてIWGP王者にとりついてしまったモノとはいったい何なのか。棚橋が言う。「ボクが背中で感じてるのは、何かよからぬモノにとりつかれてしまったのか、新たなストーカーなのか。それとも誰かオレを狙うレスラーなのか。まあ女か男かもわからないんですけどね」
確かに棚橋が試合後「これでノアとの扉が開いた」としたように、決してこの一戦でノアとの対抗戦が終わったわけではない。激動の方舟マットで期するものがあるノア勢の今後の巻き返しを棚橋は背中で感じているのかもしれない。
防衛してなお不吉な予感から解放されない新日本のエース。来月7日にはG1クライマックスも開幕する。同社の菅林直樹社長がポーカーフェースを崩すことなく「きょうはひとまず棚橋選手がベルトを守ってくれてよかった。ただG1ではこの敗戦をバネに杉浦選手も死に物狂いでくるでしょうから不気味です」と語るように、まだまだ安心はできない。
◎五輪予選スラムしのぎハイフライフローで3カウント
セルリアンブルーのマットをけん引するエース棚橋がIWGPの威厳を示した。グラウンドのレスリングで苦しんだ序盤戦。エプロンでフロントハイキックを食らって場外まで吹っ飛ばされた。さらにはジャーマンでブン投げられて防戦一方。
テキサスクローバーもアンクルホールドで返された。パワーボムでコーナーに叩きつけられ、五輪予選スラムで大ピンチ。それでもここからIWGP王者の執念をみせる。
2度目の五輪予選スラムをスリングブレイドで切り返し、ドラゴンスープレックスで反逆ののろし。最後は背中へのハイフライフローからダメ押しのハイフライフローで初防衛の3カウントを奪った。