仕事や家庭での不満をたらして泣き上戸になるお客様や、普段はシャイな振りをしているのに急にエロくなったりするお客様。でも、これって女性にも言えることだし、毎晩、そういうお客様を見ている私たちからすれば、可愛い部分を見れたようで何だか嬉しく思っちゃうの。
ただ、一番厄介なのが、お酒が入ると急に喧嘩っ早く、キレ口調になる男性。
こういうお客様にあたると、大体のホステスは慌てる素振りを見せながらも、内心冷めきってしまっている。一言で言えば、面倒臭いから。
今宵も、お酒の勢いで、他のお客様に絡みだして暴れるお客様がひとり。そのひとりのお客様から始まり、他のお客様も巻き込まれ、野次を飛ばすお客様も現れ…。
別の席に付いていた私は、自分の中で決められたマニュアル通り、慌てて止めに入る素振りを見せながらも、さりげなくフェードアウトして、元にいた席へと戻ろうとした。
その場にいた女の子たちや責任者であるママやオーナーは慌てふためいていたけど、正直、私には関係ないと思ったから。
店の前の路上から、飛ばされる罵声を耳にしながら、店に戻ると、いきなりの騒動を目のあたりにして、怯えきった新人の女の子がカウンターの片隅でしゃがみこんでいた。そして、その前には、先程まで、私がついていた席にいた米倉さんがグラスを片手に座っている。店には、その二人しか残っていなかった。
不安にこちらを見つめる女の子をロッカールームへ連れて行き、ようやく、米倉さんの元へ戻ってきた。
「結構酔っぱらってるのに、ああいうお祭りごとには参加しないんだね、米倉さん」
俺は関係ないみたいな顔して飲んでいる米倉さんを見て、嫌味交じりに私が問いかける。
「飲み屋にいる時点で、想定内の出来事だろ?」
そういって、空になったグラスを私の前にボンっと置く。
多分、私がイライラしているのは、こうやって暴れるお客様が騒動を起こしたからではない。そうではなく、どんなことにも応じない、広い心を持っている米倉さんを目の前にして、少しでも動揺してしまった自分にイライラしているんだと思う。
でも、こういう人がいつも傍にいてくれれば、私ももっと冷静な判断のできるいい女になれるんだろうなと、思ってしまったんだけどね。
取材・構成/LISA
アパレル企業での販売・営業、ホステス、パーティーレセプタントを経て、会話術のノウハウをいちから学ぶ。ファッションや恋愛心理に関する連載コラムをはじめ、エッセイや小説、メディア取材など幅広い分野で活動中。
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