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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第121回 アベノミクス2013の失敗

 2013年4月に黒田(東彦)日銀が発足。副総裁に就任した岩田規久男教授の主張に則り、
 「中央銀行がインフレ目標を【コミットメント】し、量的緩和(通貨の発行)を継続することで期待インフレ率を引き上げ、インフレ目標を達成する」
 という金融政策が始まった。

 筆者は、別にインフレ目標を設定することについては反対しないのだが、こうしたロジック(論理)については、これまで幾度となく疑念を呈してきた。
 理由は、岩田教授らが提言するデフレ対策は、効果が“測定不能”であるためだ。

 中央銀行がインフレ目標をコミット(責任を伴う約束)した上で、量的緩和を実施したとして、「いつ、何パーセントに期待インフレ率が上がるのか?」は誰にもわからない。
 上がるかも知れないし、上がらないかも知れない。
 さらに、期待インフレ利率が目標を突破したとして、現実のインフレ率が「いつ」インフレ目標に到達するのか、やはり誰にもわからない。
 2年後かも知れない。あるいは、10年後かも知れない。

 別に、
 「中央銀行がインフレ目標をコミットしても、期待インフレ率は決して上がらない」
 「期待インフレ率が上がっても、絶対にインフレ目標は達成できない」
 と、言いたいわけではない。
 「いつ」「どの程度」インフレ率が上昇するのか、誰も「コミットメント」できないのが問題と言いたいだけだ。

 そもそも、インフレ率とは何なのか。
 日銀が量的緩和として「国債」を買った時点では、インフレ率は変動しない。インフレ率とは、あくまで生産者が働き、生産したモノやサービスが買われた際の価格の上昇率を意味している。
 「国債」は政府の借用証書であり、モノでもサービスでもない。

 量的緩和で発行されたお金が、モノやサービスの購入に回れば、間違いなくインフレ率は上がる。
 例えば、政府が消費、投資としてモノやサービスに予算を支出すれば、インフレ率が上昇することをコミットできるのだ。
 それに対し、
 「いくらお金を発行すれば、期待インフレ率やインフレ率が何パーセント上がるのか?」
 は、誰にもコミットできない。

 2013年4月から'15年2月まで、日本銀行は量的緩和でマネタリーベースを何と130兆円も増やした。
 ところが、日銀のインフレ目標の指標であるコアCPIは、'14年春に1.5%近くにまで上昇したものの、その後は失速。
 直近データである'15年2月のコアCPI上昇率は「ゼロ」。およそ2年かけ、'13年春の水準に戻ってしまったのである。
 2013年に始まった「アベノミクス2013」は、失敗した。岩田教授らが主張していた学説は、現実には通用しなかったことが、2年間の「実験」で明らかになったのである。

 さすがに、安倍晋三政権は日銀に“説明責任”を求める姿勢を見せている。
 安倍総理は3月30日の参院予算委員会において、2%のインフレ目標について、
 「うまくいかなかった場合には、日銀は説明責任を負う」
 と、答弁したのだ(すでに目標達成の可能性はない)。

 もっとも、日本銀行が真の意味で“説明責任”を果たそうとした場合、
 「期待インフレ率理論やコミットメント理論に基づき、金融政策のみでデフレ脱却を図るのは限界があった。政府が財政出動により需要を創出し、デフレの真因である需要不足を解決する必要があった。ところが、安倍政権は財政出動を十分に拡大せず、挙句の果てに消費税増税で需要を縮小したため、物価上昇率が低迷した」
 と、説明しなければならない。

 いまだに「期待インフレ率理論」や「コミットメント理論」に固執している日本銀行は、上記の類の“まともな説明”はしないだろう。
 現実には、
 「短期的には原油価格の下落で物価上昇率が低迷しているように見えるが、中長期的にはマクロ経済環境により物価の上昇基調は変わらない」
 と、意味不明な答弁を繰り返すと思われる。
 結果的に、政権側も何となく納得した気分になり、これまで通り、金融政策偏重の中途半端なデフレ対策が続けられるというのが、最もありそうなパターンだ。 

 安倍政権及び日本銀行が「アベノミクス2013」の失敗を正面から受け止め、「金融政策と財政政策のパッケージ」という正しいデフレ対策に舵を切り直さない限り、2015年の我が国が「再デフレ化」する可能性は極めて濃厚なのである。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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