「一流打者でも3割しか打てない攻撃はアテにならない。勝つためには投手力を含めたディフェンスの勝負」というのが、野球界の定説だ。が、セ・リーグのゴールデングラブ賞は、4年ぶりのリーグ優勝の中日、最後まで三つ巴の戦いの末に3位になった巨人からの受賞者はゼロ。2位の阪神から捕手・城島健司、二塁手・平野恵一の2人が選ばれ、ようやく面目を保っただけだ。
一方、5位の広島からは投手・前田健太、遊撃・梵英心、外野手・廣瀬純、赤松真人と、初受賞者が4人も出ている。さらに4位のヤクルトからも三塁手・宮本慎也、外野手・青木宣親の2人が表彰されている。その上、リーグの恥だが、一塁手は該当者なしだ。
対照的に、実力伯仲で最後の最後まで激烈なペナントレースを展開したパ・リーグは、正常な表彰になっている。6球団全部から受賞者が出ているからだ。
投手=西武・涌井秀章、捕手=楽天・嶋基宏、一塁手・小久保裕紀、二塁手=日本ハム・田中賢介、三塁手=日本ハム・小谷野栄一、遊撃手・西岡剛、外野手・=日本ハム・糸井嘉男、オリックス・坂口智隆、西武・栗山巧。
初受賞者を比べても、正常なパ、異常なセがよく表れている。パ・リーグは楽天・嶋と西武・栗山の2人だけ。小久保は初と言っても一塁手としてで、二塁手では受賞している。セの方は、パ・リーグで受賞している阪神・城島、遊撃手で受賞しているヤクルト・宮本を除いても、初受賞者は広島の4人の他にも阪神・平野と、9ポジション中半分以上の5人もいる。
世代交代の激しいセに対し、実績のある実力者のいるパ。そういう現実がハッキリと出ているのだ。これでは、日本シリーズでリーグ3位のロッテにリーグ優勝の中日が勝てなかったのも当然の結果と言えるだろう。「パ高セ低」という実力格差が想像以上に進んでいるのだ。セ・リーグOBがため息混じりにこう語る。
「セ・リーグがパ・リーグに少しでも近づくチャンスがあるのは、再来年のシーズンからだろう。まず今年、ポスティング・システム(入札制度)でロッテ・西岡がツインズ入りする。楽天・岩隈のアスレチックス入りは先行き不透明だが、来オフには間違いなく海外FAでメジャーへ行く。さらに離婚問題のためにポスティングを1年先送りにした、日本球界のエースのダルビッシュも来オフにはいなくなる。その他にもソフトバンク・和田、川崎の2人が海外FAでメジャー入りするだろう。パ・リーグを代表する選手が続々といなくなるから、セ・リーグがパ・リーグに一歩でも近づくチャンスはあるだろう」
が、パ・リーグOBは鼻先で笑ってこう応じる。「スターがいなくなっても、次々と後継者が出てくるから大丈夫だね。日本ハム・斎藤佑樹と楽天の新エース・田中将大のライバル対決。それに絡んでくる同じ『俺世代』の西武・大石達也といった具合に、ちゃんと後継者は出てくるよ」と。確かに説得力はある。「パ高セ低」という現実解消は、並大抵ではない。