このイベントは、プロレスリングZERO1所属選手である日高郁人のレスラー生活20周年を記念する特別興行。本人も参戦するメインタッグマッチのほか、パフォーマンス集団・電撃ネットワークや人気お笑いコンビ・ニッチェによるショータイムなど、プロレスファンならずとも楽しめるイベントとなった。
日高は、1972年島根県の益田市生まれ。一度は大阪で就職するも、プロレスラーとなるべく上京し、当時既に多数のレスラー志願者をプロのリングへと送り込んでいたアニマル浜口道場の門を叩く。その後、1996年に藤原組の流れをくむプロレス団体・格闘探偵団バトラーツに入団。アメリカのプロレス団体・ECWでの海外修行を経て、みちのくプロレス、大日本プロレスなどのリングに上がり、2005年からはプロレスリングZERO1(※当時の団体名はZERO1-MAX)に加入している。長年に渡り、様々なスタイルの相手と戦ってきただけあって、その人脈は中々のもの。今回の20周年イベントにも個性豊かなレスラーたちが駆けつけた。
アニメ『秘密結社鷹の爪』とのコラボ、アーティストやお笑い芸人によるパフォーマンス、そしてなんとマイホームが付いてくるという2000万円のVIPシートを導入するなど、とにかく見どころが多い興行だったが、もちろん観客のお目当ては豪華な対戦カードだ。6人タッグマッチとなった第1試合「曙&宮本裕向&木高イサミVSモハメドヨネ&バラモンシュウ&バラモンケイ」戦では、落武者ヘアーと多彩な凶器攻撃で知られる極悪タッグチーム・バラモン兄弟が場外で大暴れ。大量の水を噴射しながら場外を暴れまわり、会場を大パニックに陥れた。
同じく6人タッグマッチとなった「田中将斗&鈴木秀樹&HUB VS佐藤耕平&葛西純&フジタ“Jr”ハヤト」戦では、日本プロレス界きってのハードコア・レスラーにして、通称「デスマッチのカリスマ」葛西純が、正統派プロレスで観客を魅了した。葛西と並んで客席からの声援を集めたのが、フジタ“Jr”ハヤトだ。山本“KID”徳郁直伝のフロントチョーク「K.I.D.(ケー・アイ・デー)」や破壊力抜群のキックで会場を大いに盛り上げる姿が印象に残った。
セミファイナル的なポジションとなったのが、第3試合のシングルマッチ「船木誠勝VS伊藤崇文」戦。かたやパンクラスを立ち上げて日本に総合格闘技ブームをもたらした船木。そして、かたや船木を追う形でパンクラスに所属した伊藤の対決は、スタンド、グラウンドともにハイレベル。「パンクラスを思い出せ!」「30分フルでやれ!」など、客席に陣取った往年の格闘技ファンたちから野太い声援が乱れ飛ぶ。
この日のメインイベントとなったのは、第四試合「日高郁人&藤田ミノルVS丸藤正道&ディック東郷」戦。日高とタッグを組んだのは盟友・藤田ミノルだ。2005年に開催された第2回ディファカップにおいて日高とのタッグで、ノア代表の丸藤/KENTA組に敗北を喫している。そんな縁もあってか、試合は序盤からハードな展開。チョップの打ち合いでは、日高、丸藤が共に譲らず乱打戦に突入。試合後半には日高の胸が内出血で赤黒く変色するなど、終始気迫を感じさせるシーンが続くカードとなった。
この日のもう一つのメインイベントが、日高による「20人がけ」。その内容は、親交の深い20人のレスラーを相手に、1人あたり1分間の全力ファイトを行うというものだ。今回の「20人がけ」には、大谷晋二郎、田中将斗、佐藤耕平、菅原拓也、豊田真奈美、宮本裕向、木高イサミ、フジタ“Jr”ハヤト、バラモンシュウ、バラモンケイ、伊藤崇文、藤田ミノル、池田大輔、モハメドヨネ、アレクサンダー大塚、鈴木秀樹、葛西純、原学、吉田くん(鷹の爪団)、そしてランジェリー武藤こと澤宗紀らが参戦した。
あまりにハードなタッグ戦を終え、息も絶え絶えといった感のある日高に容赦なく襲いかかる20人のレスラーたち。対する日高も全力でエモーショナルなファイトを展開する。全てのレスラーが日高と激突し、遂にイベントも大団円かと思いきや、最後の対戦相手・大谷晋二郎に「白黒つくまでやろう!」と日高がアピール。これをきっかけに「日高郁人VS大谷晋二郎」戦がスタートする。結果は顔面ウォッシュを連続で決め、強烈なラリアット見舞った大谷の勝利。
今回「日高祭20」のリングに上がったのは、プロレス、デスマッチ、総合格闘技など、それぞれのフィールドで経験を積み、活躍してきたレスラーたちだ。そんな選手たちがリングサイドに詰めかけ、大舞台を無事に終えて号泣する日高に、温かい眼差しを向けているのを目撃した。日高郁人という男の長年にわたるレスラー人生が、いかに実直であったかを実感させてくれる一夜だった。今年45歳を迎える日高は、これからもプロレスを続けていくという。世はプロレスブームの真っ只中。もしかすると日高は、シーンを引っ張るリーダーとなっていくのかもしれない。