しかし、ファンなどからの情報によって太平洋戦争前に「世界の七大戦艦」なる表現が存在しており、表記などは異なるものの同じ意味あいの言葉が存在していたことは判明した。では、海外で「世界のビッグ7」という言葉が使われていたかどうかとなると、まず太平洋戦争の前後ともに使用例が見つからず、それどころか太平洋戦争前のアメリカでは自国の誇る戦艦を「ビッグ・ファイブ」と称していた。そのため、似た表現がかぶる上に「自国の強力な戦艦を入れ替えてまで、そのような造語を用いる必然性に乏しい」ということから、使われなかった可能性が高いのである。
他方、イギリスではどのような状況だったかというと、問題となる「世界のビッグ7」に挙げられた戦艦ネルソンとロドネーへの評価はアメリカ戦艦よりもはるかに厳しく、とうてい誇らしく語られるようなものではなかったのだ。
まず、第二次世界大戦前のイギリス海軍を代表する軍艦は間違いなく「戦艦フッド」であり、決してネルソンやロドネーではなかった。加えて、フッドは「イギリス海軍においてもっとも美しい戦艦」とみなされており、あらゆる意味でイギリス海軍を象徴する存在であったのだ。
確かに戦艦ネルソンとロドネーは海軍軍縮条約に定められた上限いっぱいの主砲と防御を備えており、また当時の最新鋭艦でもあったが、イギリス海軍最強の戦艦とみなされていたかどうかについても疑問がある。おおっぴらに戦力を比較した同時代の資料は存在しないようだが、ネルソンとロドネーには後述するような不具合があり、また低速力という弱点もあった。そのため、高速力を誇るフッドのほうが総合戦力において上回っているとの見方については、それなり以上の説得力があったのだ。
そのため、世界の強力戦艦を「ビッグ7」と称する可能性はほぼ皆無で、もしそのような呼称が存在するなら「ビッグ・シックス」となったであろう。
なぜなら、ネルソンとロドネーは単に問題の多い戦艦ではなく、非常に不名誉な事件の舞台となってもいるのだ。
(続く)