江戸時代、肥後の国の海に全身がうろこで覆われて光り輝く奇妙な妖怪が姿を現した。頭部には長い髪があった。顔にはくちばし、目は菱型をした人と魚を合わせたような姿で、6年間の豊作の後に疫病が流行ると予言。自分の姿を写した絵があれば病を防ぐことができると予言して去った。その後、アマビエを描いた絵は疫病よけになるとされ、相当流行したという。この話が語り継がれ、そして病気が流行っている現代に再びよみがえるというのは非常に興味深い話である。主にTwitterで流行したアマビエ祭りだが、ついには海外へ進出してもいる。「#Amabie」とハッシュタグを付け、海外の人々も「日本の伝説に登場する妖怪だ」として描いているので、気になる人は検索してみてほしい。
さて、アマビエのように人語を話し、近い将来に起きることを予言する妖怪は多数おり、有名どころでは人面の牛の「件(くだん)」がある。これらの予言する妖怪は天変地異の前に出没するといわれ、他にも様々なものがいる。例えば「神社姫」というものがいる。これは文政2(1819)年に肥前国に出現したもので、二本の角を生やし、女性の顔をした全長2丈(約6メートル)の魚のような生物が出現。「竜宮から来た神社姫である」と語り、コレラの流行を予言したという。神社姫もまたアマビエと同様に姿を描いた絵を見れば病難を除けることができるとされ、流行ったそうだ。
アマビエに類似の妖怪がいたように、神社姫にも似た妖怪がいる。文政初期に肥前平戸に似た姿で龍神の使者と名乗る「姫魚」が現れ病気が流行ることを予言したという話が水野皓山による『以文会随筆』にて紹介されている。神社姫の場合、もともと日本各地に「人魚が姿を現し、災害が起きることを予言する」という伝説があったり、悪天候の時に人魚が姿を現した話があったため、それらを下敷きにして生まれたものと考えられている。
ちなみに前述のアマビエ祭りでは神社姫を描く人も出てきていた。ユーモラスなアマビエと対照的に、神社姫は結構、美人に描く人が多かった。
(山口敏太郎)