投資家の間に疑心暗鬼が渦巻いている。東京ディズニーランド、東京ディズニーシーを中心とする東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドの株価が、8月末ごろから猛然と売り浴びているのだ。
とにかく尋常ではない。8月25日には5880円の年初来安値まで売り込まれた。その間、6営業日連続で株価が下落した。お盆休み直前には8000円の大台に迫る勢いだった株価が一気に急落したのだ。
年初来安値更新を機に多少は回復したものの、9月8日の終値が6063円と、依然として低迷している。半年前の3月30日に付けた年初来高値9890円は“今は昔”でしかない。
「発端は8月の入園者が落ち込んでいると外資系証券がリポートしたことです。テーマパークにとって夏休みは年間を通じて最大の稼ぎ時ですが、その繁忙期に入園者が落ち込んだのでは屋台骨を直撃する。これを知った投資家が青くなって売り急いだことからパニック的な売りを呼んだ。中国バブル崩壊の影響があるにせよ、8月半ば以来、商いが急増して株価を押し下げているのは、投資家がオリエンタルランドの今後に不安を募らせている証拠です」(地場証券投資情報担当役員)
これには伏線がある。オリエンタルランドは7月30日、今年度第1四半期(4〜6月)の連結決算を発表した。その内容たるや、売上高が前年同期に比べ1%減、経常利益は8%減、純利益に至っては9%減と散々だった。
減収減益に陥った理由は明白だ。同社は4月から1日入場券に相当する「1デーパスポート」を大人と中人(高校生・中学生)が500円、小人(小学生・幼児)は300円、それぞれ値上げした。結果、1デーパスは大人6900円、中人6000円、小人4500円となった。昨年4月の消費税増税に続いて2年連続の値上げである。これでは「いつ行っても混雑している」と不満タラタラの面々に「施設の拡張など、値上げ攻勢よりも先にすべきことがあるじゃないか」と映るのも無理はない。
確かにオリエンタルランドはテーマパークへの大型投資を計画しているが、実現するのはまだ先のこと。その間、入園者に負担ばかり押し付けるようだと、ディズニーランドやディズニーシー離れに拍車が掛かる。
現実の問題として入園者はどれだけ減っているのか。オリエンタルランドの広報担当者は7、8月とも昨年実績との比較で減少したことは認めるが、数字は「公表していない」という。ただ、昨年度の入園者が3137万7000人と過去最高を記録した反動もあって、今年度は3040万人を見込んでおり、株式市場に激震が走った夏場の減少は「想定の範囲内で、お盆休みまでの猛暑の影響だけとは限りません」と釈明する。
しかし、テーマパーク担当の証券アナリストは「大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンは7、8月とも絶好調だった。その分、オリエンタルランドの陰りが際立つ」と斬って捨てる。何せ7月は前年比16%増、8月も7%増で2年連続して過去最高を更新するなど勢いが止まらない。今年の暮れに東証1部への再上場を目指していることもあって、数字の公表を避けるオリエンタルランドとは対照的である。
加えて“夢の国”の企業イメージからは程遠いが、同社には「ブラック企業」の烙印がついて回る。正社員は約2200人。これに対してアルバイトが1万8000人もおり「その半数近くが1年で辞めてしまう」とネットで“告発”されているのだからただ事ではない。今年の春には、ショーに出演していたパフォーマー勢による組合(ユニオン)結成が“ニュース”として取り上げられた。
「東日本大震災で浦安市が液状化して大騒ぎになりましたが、あの一帯は東京湾を埋め立てて造成した土地柄です。昔からその舞台裏では“闇社会の紳士”が暗躍し、あまたの利権話にはオリエンタルランドも一枚絡んでいます。液状化現象に負けず劣らず、あの界隈は伏魔殿さながらに叩けばバンバンほこりが出てきますよ」(情報筋)
むろん、そんな過去と入園者の減少は関係ない。しかし、今年3月期の同社は前述したように過去最高の入園者を記録したにもかかわらず、1人当たりの売り上げが落ち込み、売上高は前期比0.8%減少した。今年度第1四半期も入園者が落ち込み、減収減益だった。
この傾向が続けば、通年決算の下方修正も視野に入ってくる。そのとき、市場が現在に輪を掛けて冷や水を浴びせるのは必至。重ねての値上げが入園者の足を遠ざけているだけに、懲りない“殿様商法”が賞味期限を迎えたことは間違いないようだ。