『middle edge シリーズ vol.1』
▽6月30日 東京・王子BASEMENT MON☆STAR
5月に開催された旗揚げ戦で、メインイベント終了後、“中高年を元気にする鬼将軍”ガッツ石島を襲撃しリング上を占拠した、藤原秀旺率いる中高年ヒール軍団アライバル。そこに助っ人としてさっそうと現れアライバルを蹴散らしたのが、GOING-UPを運営するHEAT-UPプロレスから参戦した“18歳の新星”井土徹也だった。
井土はガッツにタッグ結成をお願いし、アライバルとの抗争に身を投じる気持ちをアピールした。アライバルもこれを受け入れた。旗揚げ第2戦目のメインで、ガッツ&井土の世代間超世代タッグが登場することに決まった。相手は藤原と松崎和彦だ。藤原はかつて新日本プロレスやWWEで活躍したバッドニュース・アレンも腰に巻いたCCWカナディアンヘビー級王者。そして松崎は、あの元NWA世界ヘビー級王者ハーリー・レイスが7回防衛し、リック・フレアーらアメリカンプロレス界のレジェンドが歴代王者に名を連ねる、NWAミズーリ州ヘビー級王者だ。“番長”の異名を持っている。
団体側が藤原の放送禁止用語も含めた暴言や、暴走を危惧したのか『中高年的世直し〜越えろ!コンプライアンスの壁』というタイトルが付けられたこの試合。先手を許すまいと、井土は藤原が被っている謎の黒覆面を剥ぎ取り、マスクにストンピングの連打を放ち、マスクを客席に投げ捨てた。井土は不敵な笑みを浮かべながら、アライバルを挑発した。しかし、親子ほどの年齢差があるであろう若手レスラーに舐められるわけにはいかない。アライバルの2人は、“プロレス界の人間国宝”級のテクニックを誇る松崎のレスリング技と、藤原のラフファイトを繰り出した。これがまだキャリアの浅い井土にダメージを与え、パートナーのガッツにもタッチをさせる余裕を与えなかった。
ようやくタッチを受けたガッツは、ラリアットやWARスペシャルを繰り出し、アライバルの2人をブレーンバスターで投げるなど、桁外れのパワーを披露。息を吹き返した井土も綺麗なジャーマン・スープレックスホールドで藤原からあわやカウント3の場面を作った。しかし、最後はアライバルが凶器攻撃を駆使し、松崎の“伝統芸能”ネックブリーカードロップ、直下式ブレーンバスターから秀旺が100%メロ〜ンジュース(高角度パワーボム)を食らわせて万事休す。“悪い”大人の洗礼を浴びてしまった。
試合後、旗揚げ戦と比べて出番がなかったガッツがマイクを掴むと「藤原秀旺、おもしれえじゃねえかよ!次の7.29王子でまたやろうじゃねぇか!」と再戦をアピール。すると藤原は北斗プロレスの参戦が前から決まっているとしてこれを拒否。客を毒づいてから松崎と控室へ引きあげた。
ガッツは大の字になっている井土に「今日の負けぐらいでへこたれるな!若いお前がへこたれてて、どうやって中高年に元気を与えられるんだ!立て!」と井土に喝を入れた。藤波辰爾の飛龍革命のときを彷彿とさせる張り手を放つと、井土が間髪入れずに張り返して、2人でアライバルにリベンジする覚悟を満員のファンの前で示した。次回大会では松崎がパートナーを引き連れて来ることになりそうだ。180センチの長身と恵まれた体、甘いマスクを兼ね備え、インディープロレス界の近い将来を担う存在として注目されている井土にとって、アライバルとの抗争は乗り越えなければならない壁であることは間違いないだろう。
セミファイナルでは、新日本プロレスのLION'S GATEにも参戦しているHEAT-UPユニバーサル王者の兼平大介が、ノンタイトルながらマスクドミステリーとのインディーヘビー級対決が実現。最後はHEATクラッチで兼平がチャンピオンの意地を見せたが、次回はタイトル戦で見たいと思わせる好勝負だった。
またGOING-UPだけではなく、HEAT-UPでもさらなる活躍が期待されている大谷譲二は、ジョシュ・オブライエンと日米タッグを結成。最後はHEAT-UPの若手選手でサンボを習得した飯塚優に、ミスター雁之助から伝授された腕極めノーザンスープレックスホールドでフォール勝ち。息もぴったりの日米タッグは、今後もタッグを組む意向を明らかにしている。GOING-UPではIWA熱波軍以外に本格的なタッグチームがいない。大谷にとっては良いところに目をつけたのかもしれない。
全体的に中高年よりも若い選手の台頭が目立った旗揚げ第2戦だが、第1試合では元FMWの黒田哲広が、黒田と同じPWCにも所属していたベテランの渡辺宏志とマニアがうなる好勝負を展開。メインでは中高年ヒール軍団が、前回喧嘩を売られた18歳の井土を返り討ちにした。今回もメインの客層である中高年のファンからは「元気になれました」という声が聞かれた。
プロレス界において世代闘争は数多くの団体で行われてきたが、『中高年を元気にする』というコンセプトは新鮮だ。次回、中高年を元気にするのは、中高年の選手か?若い選手か?場内実況もあり、プロレス初心者にも分かりやすいGOING-UPは十分に化ける可能性を秘めている。
取材・文 / 増田晋侍
写真 / T-サモハン