「まだ遊んでいたいなら、男にネクタイをプレゼントする女には気をつけた方がいい」
鼻息荒く断言するのは、広告代理店のデザイナー楠田浩次さん(仮名・33歳)。近々結婚を控えているそうだが…。
「ネクタイっていうのはきっとアレ、メタファーなんすよ。男を首輪でつないで逃がさないぞっていう。僕もソレに早く気づいていればなあ…」
彼が“引っ掛かった”相手は、もとはといえばブラリと入った店で付いたキャバ嬢。別のお店にお気に入りの子がいたのだが、さっぱり相手にされない。そこで気分転換にその店を訪れたのだ。
「出会った頃から半年過ぎても、手も握らないどころか、アフターもしてくれない。煮詰まって猛烈に口説いたら、“リリカ、がっつく人、きら〜い”と来た」
そこで目の前のフリーで付いた女の子を見て思った。“俺にはこのくらいの子がちょうどいいんだろうな”目の覚めるような美人でもないが、ブスでもない。華はないが、暗いわけでもない。どこにいても風景に馴染んでしまいそうな、エキストラタイプの女の子だった。
「全然タイプじゃないけど、まあ話せるし。俺にはきっとこういう子が合ってるんだって、次からは指名を入れるようになった」
ほとんど自虐に違いなかった。頭の中はリリカさんのことでいっぱい。キャバ嬢の話も半分は上の空。それでも家に独りで居ると、リリカさんに会いに行ってしまいそうなので、その店を度々訪れてしまう。そんな事情を知らないキャバ嬢から見れば、彼はまさに「いつも通ってくれるけど、がっつかない人」だった。
「その日は僕の誕生日で、独りでいるよりいいかと、店に言ったんです。そしたら“似合いそうなネクタイだったから”って、誕生日プレゼント用意して待ってたんだよねえ。よく覚えてたなあって、キャバの子にプレゼントあげたことはあっても、貰ったことはないですから」
勢いでアフターに誘ってみると、これまた一発OK。初めてのモテ感に天にも上る心地だった。
「俺は今モテていまーす! って大声で叫びたい喜びね(笑)。その後、彼女の方から休日デートにも誘われて、マルチか…マルチなのか?とか、馴れてないから心配になったりして」
マルチどころか、その後もっと高い商品を売りつけられることになるとは、その時点では思いもよらなかった。
「ホテルとか行っちゃう?」
冗談半分で口にすると、彼女は小さく“うん”と呟いた。
気がつくと、通って2か月でキャバ嬢とねんごろになっていた。
「お店行って帰りにホテルっていうパターンが定着して、2か月くらい経った頃かな。今度僕の家に行ってみたいって言い出して。思えばコレが黄信号だったんだな…」
一度道がついてしまうとフリーパス。休日に彼の部屋で手料理を振る舞われることも。あまり美味しくなかったが…。
「でもまさか、結婚するつもりだなんて…」
相当揉めに揉めたようだが、彼女のガッツには並々ならぬものがあった。絶対あきらめない、食いついたら離れない。まさに命がけ。そして「別れるなら死ぬ」という言葉がなぜか浩次さんを虜にした。
「そこまで思われてるの俺? 一瞬ドラマチックな気分になっちゃってつい…。今は後悔半分諦め半分です」
キャバ嬢も20代後半ともなると、自分なりの上がり目を模索し始める。彼女の年齢も29歳。その上、お水としては先が見えている。そこに現れたのが浩次さん。会社は大手、デザイナーなら手に職もある。ついでに女性関係も希薄そう。コレだと踏んだというのが彼女の裏事情。
「ネクタイ女には気をつけろ! それとキャバクラでは絶対妥協しないこと!」
最後まで叫び続ける浩次さんであった。